第3話 事件

 そんな平穏な日々に突然、事件は起こった。水曜日だった。旦那様は仕事、奥様も夕方までパートだ。


 昼過ぎのことだ。ザザっと屋外で砂利を歩く音がした。この家は二階建ての一戸建てだ。台所から脇にある勝手口から外に出られる。そちら側から音が聞こえた。

「猫か? 隣の家の人か?」

 と思った直後、ガガっという大きな音がした。勝手口を開ける音だ。それも通常の音じゃない。大きな音がしたが一瞬で終わった。その直後、勝手口がゆっくりと開いた。


「誰もいないことは確認済みだろうな」

「もちろんだ」

 作業服を来た二人の男が入ってきた。明らかにご家族とは違う。工具で無理やり勝手口をこじ開けたのだ。

「警備会社に入っていないことも確認済みさ。入ってりゃ、たいてい窓にシールを貼っていやがるからな」

 二人は靴を脱いで足音を忍ばせて侵入した。

「大人は夜まで帰ってこねえ。ゆっくり物色しようぜ」


「あ、空き巣だ!」

 ぼくは心臓がバクバクした。いや、ぼくに心臓はないので電子回路がピコピコしたと言うべきか。二人は壁に磁石で引っ付いているぼくの前を通過した。

「顔を覚えたぞ」

 一人はやせ型でひげずら、もう一人が小太りで髪の毛が薄い40代くらいの男性。近所にあやしまれないようにするためか二人とも作業着だ。

「お前は二階、おれは一階だ」

 やせ型言った。

 ドタドタと大きな足音を立てて、小太りが二階へ駆け上がった。やせ型は今と台所の戸棚を物色し始めた。

 家に誰もいないと思ってか、大胆に物色している。

「なんだよ、通帳も現金もありゃしねえ。おい、二階はどうだ」

 やせ型が大声を出す。

「こっちも、収穫なしだ。どこに隠していやがる」

 二階から小太りの声。


 そこから更に10分程度の物色。

「ちぇっ、もう3時かあ」

「3時?」

 ぼくはドキッとした。まずい、まずいぞ。今日は水曜日。奥様のパートは夕方まで。一番に返ってくるのは小学校終わりの息子さんさんだ。たいてい3時半には帰ってくる。


「何も見つかりやしない。ずらかるか?」

 階段を下りながら小太りがやせ型に話しかけた。諦めて撤収してくれ、とぼくは祈った。

「いや、絶対隠していやがる。このくらいの家なら現金がゼロってことは有り得ねえ」

 

だめだ、まだ居座るつもりだ。時間がない。息子さんが帰ってきたら人質にされるかもしれない。目撃者として連れ去られてしまうことだって有りうる。


 ぼくは決断を迫られていた。

「やるしかない。あれを。今やらなくていつやる?」

 ぼくは決心した。

「お世話になったご家族の命が掛かっている」

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