第11話
俺は終界兄弟は伝説をなぞろうとしている。テュールは伝説ではフェンリルに腕を噛ませ、フェンリルを倒している。ならば1度、その伝説をなぞれば、きっと何か見えてくるものがそこに見えてくると思う。きっとヨルもそういう作戦を考えつくだろう。ヨル、ヨルムンガンド。俺の能力であり、友人であった。先日目の前のテュールに殺された。俺はこの神を殺さなければ、怒りを抑えることが出来ない。最初は後悔が多かったが、いつしかそれは怒りの感情になっていた。
しかしこの蛇古の行動が兄である影狼を苦しめていることを、蛇古は気づけもしない。それほど蛇古の行動は怒りに支配されていたのだった。
兄がちょうど、テュールの腕に噛み付いている。それをテュールは何とか抜け出そうとするがしかし顎力が強すぎて離れない。できた隙を見逃すほど俺らも甘くはない。俺は兄とは別の方に、攻撃をする。それを片腕で受け流されるが、俺らの本当の目的はそれではない。俺らを取り囲むようにして現れる、使い魔の軍勢。ざっと100を超える数の使い魔。並の闇の能力者なら、体のどこか1部を犠牲にした上で、激しい頭痛に見舞われているだろう。しかしこちらは、神話級。それも使い魔に特化したヘルである。容易にこれだけの数を出せばするだろう。しかししっかりとした統率が取れるのは母さんの修行に俺らと共に耐えた冥子だからできることである。取り囲まれる地上戦を嫌ったのかテュールは跳躍しようとする。しかしそれは狼化している兄が地面に足をくい込ませ止めている。片腕を止めているだけでもお釣りが来るほどの働きなのに、まだ働くときた。これは俺も本気を出さなければいけない。そう俺はしっかりと決心する。大地を蹴り、テュールとの距離を一気に詰める。そこからは殴りと剣の激しい攻防。速い剣先を拳で受け流しながら、隙を見て攻撃に転じる。それを剣で受け止められる。その繰り返し。俺の拳には少しづつ血が垂れ始めている。けれど痛みは感じられない。それはきっとアドレナリンの分泌による興奮状態が起きているからだ。拳を止めてしまえば、無理をした反動が一気にくる。それだけは避けなければならない。この攻防は案外呆気なく終わった。俺の1発でテュールの剣が砕け散った。その瞬間テュールは驚きと困惑に支配された。その隙を冥子が見逃す訳もなく、使い魔の軍勢が押し寄せる。
俺は立ったまま右腕をあげる。今の全身全霊を持って、血だらけの拳で腕を上げる。誰に見られている訳でもないが、確かにヨルに対してのメッセージだ。
『お前がいなくても俺はなんとかなる。だから気兼ねなく逝け』
というメッセージを込めて、たとえヨルには届かなくとも。
※
光属性。それは闇属性と対になる属性。この能力の使い道は魔を払う程度である。いわゆるハズレ能力。けれどハズレ能力を引いたからと言って諦められるような人間ではなかった。だから俺は今陸高の最強に近しいところにいる。
「なぁ?光の能力って何が出来ると思う?」
俺は前方で俺の事を睨んでいる神、ヘズに問いかける。ヘズはナイフを差し込んでくる。それを剣で受け止めるが一気に貫かれる。
「単純だ。魔を払う。それだけだ」
端的にそういい、ヘズはナイフを次々に刺してくる。俺は剣が壊れてしまったので、腕で受け止めるのだが、それも貫かれてしまう。腕を一気に貫くとか強すぎる能力だろ。
どうするか。一気に思考をめぐらせる。今まで体を動かすために働いていた脳が、思考のための脳にチェンジする。その間にもヘズは攻撃をしてくるが、それを回避していく。2発3発くらってしまったが、致命傷が免れる場所である。しかし痛みは感じている。回避に徹していた足もこれ以上やると、怪我を負うと言わんばかりに震えてくる。一つだけ作戦が思いついた。体の限界も近い。きっとこれがこの戦闘最後の行動になるであろう。だからこれでしとめなければならい。ぐっと足に力を入れ、大地を蹴る。
一気に距離を詰め、懐にしまっていたナイフを三本投げつける。二十メートル程の距離で放たれたナイフを意図も簡単に打ち砕いていく。しかしそのナイフには光の能力を付与している。眩いほどに発光した刀身散らばる。あちこちで発光する刀身だったもの。その光に目を奪われている瞬間、俺が投げた日本のナイフが死角から飛び、そしてヘズに刺さる。その瞬間付与していた能力を活性化させる。ヘズの体に刺さったナイフは先程のナイフたちと同様に発光する。ヘズは「ガァアガッ」と苦しそうな声を上げる。光の能力は発光させた時に発生した熱を調整することが出来る。あまり知られていない光属性の良いところだ。そして、先程のナイフには1000度強に調整されている。
「燃やすことだよ。」
うずくまるヘズに対して、何本ものナイフを放ち、それに熱をおびさせる。そうしてヘズは燃えていく。眩い光の中で。
※
「ほっほっほ、北欧のやり合おうではないか。」
僕は目の前にいる髭を胸元あたりまで伸ばしたムキムキの爺さんに警戒していた。ただの爺さんでは無い。僕らと同じ神である。しかしその神としての雰囲気はオーディン様やロキに通じるものがある。そんなことを考えている隙に前方の神は光の速度で移動する。目では追えないが直感で相手の攻撃を受け止める。どうやら力はこちらが勝っているようだ。ならば勝てる。僕は確信する。僕は手数で押し始める。その手数を上回る程の連撃。そして1発1発の間隔が早すぎる。抑えることなど不可能である。少しづつ、こちらがダメージをおっていく。相手には一撃も入れられないままに。1度相手の攻撃を受け流し、隙を作り、ギャラルホルンではなく素手で攻撃をしてみる。何とか体にヒットするが、それに対して少しだけ反応を見せる。にっと口角をあげて笑顔になる。負けた。俺はそう感じる。
「では本気を出すとすらかのう。」
目の前の神は、最初の合図でトールが作った魔法陣と同じようなものを即座に形成し、そうしてすぐに雷を落とう。その雷は僕目掛けて落ちてきて、頭に直撃する。
「ゼウスかよ…」
そうしてまた、戦闘が終わった。色々なところで決着が着いているであろうこの最終戦争についてこの神ゼウスは何を思っているのだろうか。
「はぁ。トールとやらと対峙してみたかったのだがのう」
ゼウスは消えていく。まるで自分の仕事は終わったというかのように、光に包まれて消えていく。
※
「草薙剣」
俺は拳10個分程度の剣を顕現させる。握り心地が以前よりかは悪くなっているように感じる。それはきっと数千年振りの戦闘だからだろう。目の前にいるべっぴんの姉ちゃんとの距離を詰め、刀を下段から切り上げる。それを余裕で受け止められる。確かに力をそれほどまで入れていない。けれど俺の攻撃を止めることに対して、少しだけ驚くが、驚きよりも興味が勝つ。そして少しニヤリと笑って、連撃を繰り広げる。それを次々に受け流していく。攻撃はなかなか当たらない。ならば受け流している素手ごと壊す。先程とは比べ物にならないほどの力を込める。それを腕で受け流そうとするが、その片腕は切断される。血が飛び散り、俺の服にかかる。懐かしい血の暖かみを感じる。太古の昔俺ら神は色々な騒動で血を流した。戦場というのは必ず血が流れる。それはきっと今の世の中でも同じだろう。そうしてこの草薙剣は血を感知する切れ味が増す。
「ここからが本番だぜ。べっぴんの姉ちゃん」
神でも視認できない速度で、連撃を繰り広げる。この太刀筋を全て見極める事ができるのだとしたらそいつは、唯一神である。俺らの日本には唯一神というものが居ない。よって戦闘においては俺が最強であった。けれどそれ以外が強い奴らがいた。それはツクヨミであったり、アマテラスであったりするのだ。
全ての攻撃を受け流しているが、それで少しづつ切り傷が着いていく。そうして俺は足を切断する。機動力を奪うと、相手は一気に受け流すのが辛くなっている。俺は草薙剣を心臓に突き刺してやる。とっとと逝け。
「じゃーな」
そうしてスサノオは光包まれて消えていく。スサノオもこれで自身の仕事が終わりと言わんばかりに消えていく。1度スサノオは一息つく。そうして当たりを見渡す。スサノオはどこか懐かしぬような目を辺りに向けている。スサノオは完全に消えていった。
※
どうやら先頭が終わったようだ。さてでは最後の戦闘を行おうではないか。やはり最終戦争、ラグナロクのフィナーレを飾るのは俺、ロキの戦闘であろう。そんなことを考えている俺自身がおかしくてふっと少し笑ってしまった。
「さて側はバルドルか、さて中身は誰だろうね?」
問いかける。別にこの問いの答えを気にしてる訳では無い。まぁオーディンの子供らしいからある程度、予想は着いている。バルドルの能力は操り。俺にとってはその能力は意味の無い能力になる。
「俺には意味が無いとか考えましたね?それはどうでしょうか。」
そう言われ辺りを見回すとそこには先程までは倒れていた人間達が立ち上がっている。それはバルドルが殺したであろう人々で、俺にはそれを倒すことが出来ない。
「あなたは優しいですからね。ロキ?」
人々の攻撃を全て回避していく。バルドルにたどり着くことは出来ない。くっそ。この人達を倒していくか?いやそれはダメだ。1度死んだ人間をもう一度殺すなんてこと気が引ける。
『バカ父上。兵貸すよ』
そんなやる気のなさそうな声が聞こえてきて、多くの使い魔たちが地面から現れていく。それは俺の娘の力である。その使い魔達は次々に人を倒してくれる。けれど俺はその人たちを倒したという罪悪感に苛まれ足が動かなくなっている。くっそ。まんまに相手の柵に溺れている。確かに俺は優しすぎた。クッソが。
『……父上。その人間を倒したのは私。父上じゃない!』
叫び声が耳に入ってくる。そうして俺はハッとして正気に戻る。そうかここでこいつを倒さなければ、人々はもっと多く死ぬ。ならば俺が覚悟を決めなければならい。1度深呼吸をして、大地を蹴って距離を詰める。拳に力を込め、腹に1発殴りを放つ。それを腕で受け止められるが、蹴りを放つ。これは受け止められるほどの防御力はなかったようだ。かはっと苦しそうな声を上げる。
「まだまだ行くよ?」
ジャブを数発、それに気を取られた瞬間に右ストレート。ストレートがどうやらみぞおちに入ったようだ。そうしてバルドルは気絶する。俺はそれに追い打ちをかけるように、首を絞める。息の根を止める。人を殺した。以前やった事があるはずなのに手が震えてくる。俺がこの人を殺したのだ。俺は肉体を返す。能力はこのまま俺が持っていく。目はもう融合してしまったために返すことは不可能である。
こうして、多くの死人を出しラグナロクは終わった。けれどラグナロクは人間陣営の勝ちで幕を下ろしたのであった。
※
「ラプラスの悪魔がこちらに着くとはねぇ。」
「確かにそうだな。けれど1番驚いたのはラプラスの悪魔がしたことだね。」
俺は1度息をつきながら、前の方にいる最強の能力者であった人間と対話をしている。こいつの能力ももう奪われてしまった。無能力者へと成り下がったのだ。
「そうだね。ソロモン72柱との契約、それに能力の保管庫の解放ときた。」
「やってることがやべぇんだよ。」
能力の保管庫。それはオーディンがしまったいくつもの能力を保管していた場所である。それを解放したことによって僕たち人間に能力が付与された。そう能力とはオーディンが所有していたものを解放して得られた力なのだ。
「それより驚いたのは、ロキが元々オーディンだったてほうかな。」
ある程度事の顛末を、南乃花師匠から教えてもらった。以前にも似たような戦争が起こり、それの勝者であった悪魔が、神の側を被り神として振舞っていたらしい。そうして神達は悪魔へと成り下がったらしい。
「それも驚いたが、1番は一が全ての能力をまとめると言い出したことの方が俺は驚いたよ。」
今は多くの生徒たちが意識不明や怪我で入院している。それに死亡した生徒も多くいる。けれど唯一負傷がなかった、一は旅立って行った。その旅の目的は能力をひとつにまとめること。ただそれだけだった。最後に南乃花師匠も死んでしまった。彼女はラプラスの悪魔と言われる存在である。この能力は譲渡をすることが出来、それをすると所有者は死んでしまうという能力である。ある特定の条件以外では死ねないある程度の不死性がある能力である。
※
「はぁー」
なんでこいつら3人は俺に迷惑をかけるんだ?
先程ラプラスの能力で予知した未来。ラプラスの悪魔の能力は結果だけが表示される予知の能力。そしてその予知道理にしなければ俺らは死ぬようである。しかも結構無惨に死ぬようである。
ちなみに前方にいるのは、狼化した影狼がそこに入る。そうして影狼は俺に突進してくる。それを肉体強化を付与し、何とか受け止める。
影狼に触れた時点で俺の目的は完遂した。略奪の能力の発動。今まで感じたことの無いほどの痛みが全身に走る。これから回想が入るだろうと身構えるが、特に何も無いが、立ち上がれないほどの痛みが足に走り、腕にも似たような痛みが走る。腹には幾つものナイフで串刺しに刺されたような痛みが走る。俺はその痛みに耐えられずうずくまる。心做しが体も暑くなり、鼓動も早くなっていく。けれどその痛みも数分で収まる。能力を奪う時にこんなこともあるのだな。そう思いながら俺はその場を離れた。この街のヤツらの能力は大体奪った。次の街に行かねばならない。
※
2年後
あの最終戦争からだいぶ復興したこの街に俺は今も暮らしている。生き残った先輩たちは卒業していき、気づけば俺らが最高学年になっている。だいぶ寒い冬に俺は外にいた。今日一が帰ってくるということを、知らされたのだ。ならば出迎えるのが筋ということでここにいる。
「久しぶり」
懐かし声がそこに響く。俺は振り向く。そこには二年前より大人びていて、傷が多く見受けられる。それはこの旅を考えれば、少ない方なのかもしれない。
「4月。そこが最後の山場だ。」
そうして時はとても早く流れて言った。その間にも一に旅での話を色々と聞いた。そこには色んな世界の色々な人がいたようだ。桜がさきはじめている4月にすぐになった。
一はひとつのお屋敷があり、庭がとても広い場所にいた。そこには俺と陸奥校長程度。これから始まるのは、能力と決別するための儀式だ。
「じゃあやります。」
一は1度目を閉じて、フゥーと息を吐き、そして目を開ける。
我は彼らの思想、過去、未来全てを背負いし者。
炎は大地を温め、水は全てを潤し、雷は大地をも穿つ。
風は運命を運び、氷は鋼のように硬く、土は生命を産む。
闇は何よりも暗く、光は世界を照らす
憎みの魂は神をも殺めた。
幾重もの奇跡と軌跡が重なり今この世にある力は全て我に集まった。
仇の力が集まりし今美しき千の花は此の世に根を張る。
全ての力は一つに集った。
我らの問いに答えよ。
往古来今何億年後も此の世に根を張り続け給え
《仇色の華 千本桜》
そうして一の腕から黒色のたまが空に打ち上がり、地上に落ちてくる。地面に触れた瞬間その黒色のたまたちは姿を変え、何本もの木となり、この屋敷の庭に根を張り出した。
「用意してくれたか?」
一は悪戯っぽく笑って、俺に問いかけてくる。俺は前々から植えたい桜を1本用意してくれと一から言われていた。俺が用意したのはあまり育っていない河津桜を用意していた。そうして俺はその桜を植えた。
一が作った桜達は、まるで桜とは思えない色をしている。その色は青だったり、赤だったり、緑だったり様々だ。大きくわけて9つほどの色がある。そこに俺はただの桜を植える。その桜はしっかりと花を咲かせている。
「全部美しいが、その桜が一番綺麗だな。」
ボソリと一が呟いた。
※
何度見たか分からない光景を俺は見ていた。そこにはピンク色とは違う色の桜が999本植えられていた。その中にひとつ大きなただの桜が植えられている。あれから何十度目かの春。そこにはあいつが植えたただの桜が誇り高く、そびえ立っていた。
「やっぱりその桜が一番綺麗だよ。」
そう俺は呟いていたのであった。
千本桜 サイキック @syjl
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