第14話 いじけるな、されば開ける

 寒くなった。手袋を取り出そうと、コートのポケットに手を入れた。何か、見覚えのない異物が手に当たった。

 引っ張り出すと、靴箱の鍵だった。

 「ウワー」と、ほとんど人のいない路地で叫んだ。

 どうして、出てきたんだ。

 コートのポケットを探ると、ポケットは真上から垂直方向に手を入れるものと、後ろから水平方向に入れるものと、二種類が入れ違いになっていた。垂直方向のポケットだけ探して、水平方向にあるポケットを探し忘れていたのだ。もうコートを買って、二シーズン目だが、こんな構造になっていると初めて知った。それとも、自然と使っていたんだろうか。

 愉快になって、耕太郎は笑った。

 すぐにスマホをリュックから取り出した。電話番号を調べて、スーパー銭湯に電話した。

 「あ、さっき鍵を無くした客ですけど、鍵ありました」

 「良かったですね。持ってきてくだされば、お金は返却いたしますので」

 たぶん、さっきの店員さんだろう。

 本当に嬉しそうな声で店員さんはそう言ってくれた。

 明日も行くから持っていく、と告げると、「お待ちしております」と相手が高校生なのに、とても丁寧な言葉遣いで言ってくれた。

 電話を切った後も、心が温かいままだった。

 自分自身に希望があるのかどうかわからないし、夢中になれるなにかが見つかるかもわからない。でも、来年せめて誰かの心を温かくすることができれば。来年はそんな一年にしたいとそう願った。

 人より大きいことがコンプレックスの若者がいつも丸めている背中を、少しだけ伸ばし、胸を張った。

 何度目かの除夜の鐘が鳴る。

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実家の風呂が壊れたから、スーパー銭湯に行ったら・・・・・・。 まさりん @masarin

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