第13話 なんて日だ!

 三十一日、夜、最寄り駅に降り立った。

 それほど自宅から遠いわけでもないのだが、スーパー銭湯へは電車で二路線を乗り継がなければならなかった。車中、しきりにため息が出た。「ついてない、ついてない」という言葉が頭のなかに浮かんだ。そのたびに、意図せずため息が出た。

 大晦日で、政府の自粛要請のせいか、乗客は少ない。妙に寂しい気分になる。

 「もう、今年も終わりか」

 そう思うと一年間をやはりふり返ってしまう。

 二〇二〇年は、新型コロナウイルスに振り回された一年だった。いきなり、全国の学校が休校になった。課題だけをこなして、家に閉じこもっているのは若い身空には酷だった。

 耕太郎には彼女もおらず、部活も一応入っているのだが、行ったり行かなかったり、だ。情熱を燃やしなにかをやっているのではなく、温度の低い青春を送っていた。それでも、「何もするな」と言われれば、低温の青春を持て余す。それが人というものだろう。

 ――ついてない。ついてない。

 いやなことばかりを思い出す。オンラインで担任と面接をして、「やりたいことをきちんと決めろ」と叱られたことを思い出してイライラした。担任は耕太郎以上に何かに苛立っていた。状況に心がついていけないように耕太郎には見えた。そんな大人たちの姿を多く見た気がする。

 乗り継ぎの駅のプラットフォームに電車が入る。

 ホームの乗客はやはりまばらだった。


 最寄り駅の改札にSuicaを通す。

 まだ、乗客がいる時間帯だろうに、改札の前は閑散としていた。

 駅の周りは気温が少し高く感じる。いつもの夜はそうだ。しかし、今夜は逆に寒く感じる。

 高架の駅から下りて、線路に沿って歩く。

 ビル風が強く吹いている。

 遠くから除夜の鐘が聞こえ始めた。

 「ゲ、そんな時間か」

 スマホの時計を見ると、十時を過ぎていた。ついでに、スマホの通知画面に母親からLINEが何度も入っていたようだが、無視していたようだ。自分がタイムリープした気分になった。一度、今の世界ではない、どこかの世界へ。世界線を飛び越えて移動して、帰ってきたような。単調な日々を送っていたから、スーパー銭湯での時間は刺激的すぎたのだろう。

 ――ついてなかったけど、まあいいか。

 という気分になってきた。

 中学二年で部活を辞めてしばらく、勉強を頑張り始めるまで、鬱々とした日々を送ったのを思い出した。きっと、あのときとこの一年は似ているのだろう。

 ただし、待っていれば、普通には戻れる。

 ドキドキするようなすごいことは起こらないけれど。

 腐っててもしょうがない。

 そう思おう。

 起きたことは起きたこと。

 もう変えられるわけではない。

 嫌なことを忘れることは無理だけど。

 まあ、いいや、って流すことくらいはできる。


 鼻でフフッと笑うと、息が白く空中に流れた。

 見上げたら、冬の空気の綺麗な空が見えた。

 星は見えないけれど。

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