奇跡的な光のめぐみは非人道兵器

ちびまるフォイ

宇宙(そら)にかえさないで

窓から1筋の光が入っていた。


まるでレーザーポインターのように細い光は、

窓を突き破って床を貫いて部屋に差し込んでいる。


「誰かのいたずらか?」


窓の外から誰かが光を入れているのかと思ったが、

光の源は太陽に続いていた。


試しに光の線にヤカンを投げてみると、金属のヤカンは豆腐のように空中で両断された。

まるでウォーターカッターだ。


「さ、触らなくてよかった……」


考えなしに触っていたら今ごろ指を失っていたところだろう。


太陽が雲で隠れれば消えるかと思いきや、部屋に伸びるビームは雲を貫いていつまでも残っていた。

夜になってもずっと残っている。


寝ぼけてすっころんだときに、光の筋に頭を突っ込んだらどうなるか。

それは回転ノコギリに頭を入れるのと同じようなことだろう。


日常にこんな危険物を常駐させるのは耐えられない。

なんとかしなくてはと思い、大学にいる光専門の教授に事情を話して現物を見せてみた。


「これは驚いた……ウルトラ太陽光収束ビームですね……!」


「な、なんですかそれ」


「オゾン層や大気の状況、宇宙の屈折角度が奇跡的な状態になり

 太陽光が1点に集中している天文学的にも珍しい状態です」


「それはどうでもいいんですよ。どうすればこの危険なレーザービームを消せるんですか」


「時間経過で各要素のかみ合わせが悪くなれば勝手に消失します」

「ああ、そうなんですね。それはよかった」


「……消失は1000年後くらいになりますが」


「そんなの消えないのと一緒ですよ!!」


何でも両断してしまう光のレーザーが知れ渡ると周囲は完全に封鎖された。


高密度に集められた光はあらゆるものを貫き両断してしまう。

その危険性に目をつけたのは金属加工の職人たちだった。


「するってーーと、電気も使わずにカッターを使い放題ってことかい? そりゃ最高だ!」


様々な金属を持ち込んできては試しにカットさせてくれと言い寄ってくる。

どんなに硬い金属であっても、太陽光はするりと切り裂いてくれた。


「こりゃすごい! こんなにキレイな切断面は見たことがない!!」


職人は大喜びで仲間に見せていた。

その姿を見てこれは金になるなと確信した。

昔から人が喜ぶところには儲けのタネがあると祖父が話していた。


「さあ並んで並んで! 太陽光レーザーを利用したい人は整理券を取ってね!」


目論見は大成功でこのレーザー使いたさに訪れる人が後を絶たない。


ダイヤモンドなどの硬い宝石加工のために使う人や、

話題性につられた人が面白半分にものを両断しに来るので寝る時間もない。


「うわ、まだまだ列残ってるなぁ……」


自分の部屋に向かって並ぶ列はムカデのようにうねりながら、地平線のかなたまで続いていた。

これだけ並んでいるのに1人ずつしか通せないのは非効率。

けれど、部屋に差し込む太陽光は1筋しかない。


「もっとたくさんの人をいっぺんに招けないものか……あ、そうだ」


ひとつ試したいことを思いつき、手鏡をそっと太陽光のレーザーへと差し込んだ。

手鏡はレーザーで両断されずに光の線を空へと打ち返した。


「やった! これは使えるぞ!!」


いくつもの鏡を用意して差し込んだ光を反射させた。

ジグザグに光を反射させること、一度にたくさんの人が利用できるようになった。


使い切れないほどのお金がみるみるたまり始めたとき、

お硬い軍服に身を包んだ人がやってきた。


「おい貴様。そこで何をやっている」


「なにって見ての通りですよ。たまたま家に差し込んだ天然資源の恩恵をみんなと共有しているだけです」


「お前はその光の危険性を理解しているのか」


「理解していますよ。なんでも切れちゃうから取り扱いには気をつけます」


「いいやわかっていない。それは光の速度であらゆる目標物を焼き切る危険な兵器だ」


「はあ!? そんなわけないでしょ!?」


「とにかくこの家と、光と、お前の金はすべてこちらで没収する。抵抗すれば殺す」


「い、いやだ! この光は俺のものなんだ!!」


とっさに手鏡を手にとって角度を変えさせた。

反射された太陽光が軍人の体を瞬時に貫き、空へと光が伸びていった。

付き添いの軍人は目の前で上司が光に貫かれたのを見て腰を抜かす。


これはチャンスだ。


「動くな! 俺がちょっと手首をひねるだけで、お前らの体を全部焼き切れるんだからな!」


「ひいぃ!」


「わかったら二度とこの家には近づくな! 次はないぞ!!」


「すみませんでしたぁ!」


強力な重火器を携えている軍人が、手鏡に恐れて逃げるのはこっけいだった。

究極のレーザー兵器を前にすれば無理もない。


「ふふ、はははは! 思い知ったか! この光は俺のものだ!」


手鏡に反射された伸びる太陽の光は空へとどこまでも昇っている。

その気になれば町を光の速さで両断することもできる。


圧倒的な力を手にしたことで自分の中でのモラルが崩れていった。


「お前ら! 光で貫かれたくなかったら、俺になんでももってこい!

 美女に金、なんでもだ! この場所に現代の酒池肉林を作ってやる! わっはっは!!」


すると、ひときわキレイな女性がやってきた。


「ようし、お前は俺の肩を揉むのだ。俺が寝転んだら耳掃除をするんだぞ。

 もしすこしでも抵抗してみろ。お前の体を光が貫くからな」


俺は見せつけるように手首を動かし、空に昇っている光の筋を動かしてみせた。


「あ、あの……」


「なんだ? 言ってみろ」


「早く逃げたほうがいいですよ」


女性はそれだけ言ってそそくさと逃げ去った。

ふと空を見たときにはすでに遅かった。



宇宙へと照射された光に両断された惑星の破片が、すぐそばまで落ちてくる瞬間だった。

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