理不尽スケジューラー田中
長月瓦礫
理不尽スケジューラー田中
『まーたゲームをしておるのか、キサマは』
「何だよ、お前だって容量食ってるくせに」
スマホの中にインストールしたスケジュールアプリが文句を言い始めた。
予定している時間を過ぎると勝手に起動し、催促し始める。
時間を守るのは確かに大切なことだが、中途半端なところで終わってしまう。
もう少しだけ時間を伸ばしてほしい。
「だーもー! 余計なこと言うせいで戦争始まっちゃったじゃんか!
こっちはまともな戦力がないんだぞ!? どうすんだよ、これ!」
『知るか! 気合でどうにかしろ!』
気合でどうにかなったら、時間通りに終わっている。
精神的な問題でどうにもなっていないから、時間が食い込んでしまっている。
無理矢理終わらせ、ゲームを終了する。
「ちなみにだが、今月はいくらつぎ込んだ?」
『……いくらだっけ』
バイトで稼いだ金でゲームに課金している。
全体の三分の一程度に留めているつもりだが、総額を問われると困ってしまう。
『だから! 家計簿をつけろと! 何度言わせれば気が済むんだ!』
「そういうお前こそ、いつになったら実装されんだよ!
毎回フィードバックで送ってるけど、全然来ないじゃんか!」
『開発部の意向など知るか! 俺はただのスケジュール帳なんだぞ!』
すべてはゲーム依存症を危惧した一部の教育委員会から始まった。
スケジュール管理のアプリを子どものスマホに入れ、親のスマホと連携する。
これで遠隔操作が可能となり、ゲームなどを強制終了できるようにあった。
しかし、職場によってはスマホを持ち込むことができない。
子どもの状況を知ることができないということで、代わりとなるAIを組み込むことになった。
それがスケジューラー田中である。
予定していた時間を過ぎると、今のように文句を言い出すのだ。
「んなこというならお前が回してみろよなー。
確率すっげー渋いんだから」
田中は今やっていることを強制終了させる程度にはアプリに介入ができる。
その特性を利用し、ソーシャルゲームのガチャを回させたり、動画をバックグラウンドで再生させたり、子どもたちは裏技のように駆使していた。
これは教育委員会が黙認しているバグの一つである。
AIとはいえ、友好的な関係を築けるのであれば、目的以外のことに使用してもいいと考えているらしい。田中はそれを拒否する権利はない。
『まったく、何が面白いんだか……』
ガチャの画面に移り、回すと書かれているボタンが押された。
アームのような物が画面から降りてきて、虹色に光るボールをいくつかつまんだ。
ボールを穴に落とすと、5個ずつ並べられ、キャラクターが一つずつ表示されていく。
「え、ちょ……待って! 今の!」
『何だ、騒々しい』
星マークが6つ並び、ドレスを着た女性が軽く自己紹介をした。
「すっげえ! 田中マジ神なんだけど!」
『何の話だ』
「だから、今の環境だとこいつが絶対必要なんだよ! ついにキター!」
ゲームの最強キャラクターを当てたらしい。
田中は確率を操作するほど性能はよくない。
本当に運がよかっただけなのだろう。
『何なんだかな……』
スマホを掲げてはしゃぐ子どもを見て、田中はため息代わりにスマホを震わせた。
理不尽スケジューラー田中 長月瓦礫 @debrisbottle00
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