最終話 高橋こころという人間
もう二度と対面することが出来なと思っていた彼が私の目の前に現れて私の命を救ってくれた。
ボフッと音を立てて私たちは草むらに横になる。
「砺波くん。ありがとう。」
今私の隣にいる彼は私の手を握ってくれている。彼の温もりが、優しさが、全てを知った今彼の本当の私への感情を知りたい。
「それより貴方大丈夫なの」
「見ての通りボロボロだよ。」
そういう彼の声は小さく細くこの静寂でなければき声はしないだろう。
「消えかけている火に自ら水をかけているような感じだ、いつ消えたっておかしくないさ。」
そういう彼の声にはただ細いだけでなく何かを我慢しているのすら感じさせた。
「ねぇ、砺波くん。今はさ2人きりなんだからあなたの思ってるホントのこと話してもいいと思うんだ。」
「こころ…さん。」
私がそう言うと彼は私の手を一層強く握りながら泣き出した。
「僕だってもっと生きていたかった。なんで僕だけこんな思いをしないといけないんだ!僕が一体何をしたっていうんだ!僕はただ平穏に日常を過ごしたかっただけなのに…もし神様がいると言うならば今すげ目の前に現れて説明して欲しい。」
彼のその言葉は私が長年思っていたことと同じ事でいつぞやに彼が言った『似たもの同士』がその通りなんだと改めて思った。
「ねぇ、砺波くん。」
未だに涙を止めることの無い彼に声をかける。わたしがずっと思っていたこと、
「私あなたのことが好き。」
私がそう言うと砺波くんは目を見開きながら応える。
「僕もだよこころさん。」
そう言うと彼は私の唇に重ねてきた。
「私のファーストキス奪われちゃった。」
それからは『もしも』の話をし続けた。
もし結婚したら
もし子供が産まれたら
もしこのまま関係が変わらなかったら
もしこの場にゆかりがいたら
もしこのまま砺波くんが隣に居続けてくれたら
そんな叶いもしない虚空の夢を語り合った。
「ねぇ、砺波くん。」
「そうか。」
「私ね、やっと1人で生きていけると思うんだ。」
「それは少し寂しいな。」
「そんな事言わないで、こうなれたのも貴方のおかげなんだから」
「……………………。」
「だからさ、」
「……………………。」
「もうちょっとくらい隣に居なさいよ。バカ」
気づくと隣にいた彼は静かに目を閉じて眠っていた。
夜の静寂が戻る。最後の最後にホントの気持ちを言えた、そして聞くことが出来た。
私は彼の人生に色を付けることは出来ただろうか。
◇◆◇
あの日から早くも4年がたった。
今私は両親がいる海外に来て専門学校に通っている。
彼のおかげで苦手だった人間関係も前よりマシになってきてる。
本当に彼には感謝してもしきれない。
そして、私は多分これから彼以外の男性を好きになることは無いだろう。彼よりもかっこいい男性がいるなら是非紹介してもらいたいものだ。
「もう、4年になるのか。」
中にはで空を眺めながらそんなことを呟いているとバサバサと鳥が青い空に飛んでゆく。
(ふふっ、)
「ねぇ、砺波くん。」
「あなたは今どんな鳥を見ていますか?」
高橋こころという人間。 夏凪碧 @aqua0825
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