第20話 推参
「なんで、なんでよ。砺波くん。」
病院から出た私はひとり夜道を歩いていた。いつも通っている帰り道のはずなのにとても長く感じてしまう。
医師から砺波くんの病態を告げられた。
砺波くんがこのことを隠してたのは確かにショックだったけど砺波くんなりに私に心配させない為の事なのかなと思っている自分もいる。
それでも…
「どうして、どうして貴方まで私の前から消えようとするの…。」
私の近くにいる人が、好きな人が今いつ死ぬのか分からない状況になってしまっている。
ゆかりの時と同じ感覚だ。そう思うとずっと我慢していた涙がとめどなく出てきた。
これはもう自分で抑えられる範囲を越えてしまっている。ひとつまたひとつと幾度となく涙が頬を伝っていく。
「砺波くん、最初に言ってくれたじゃない。私のことを救うって、」
そんな泣き言を呟きながらトボトボと歩いて時だった。
横から強烈な光と頭が痛くなるほどの金属音が響いてきた。ハッとそちらに顔を向けると大型のトラックが私目掛けて迫ってきていた。
(しまった!)
砺波くんのことばかりを考えていて周りに注意を向けるのを怠っていた。
(逃げなきゃ、)
そう頭で考えていても体が動かない。恐怖で足がすくんで思うように動いてくれない。
(嫌だ、死にたくない。まだ死にたくない!)
死にたくない。そう思っていても無慈悲にもトラックはぐんぐん迫ってくる。
スローモーションのように映る光景と一緒に今までの砺波くんとの思い出がフラッシュバックしてきた。
(もう…だめ。)
目をギュッと瞑り全身に力を入れた、その瞬間。私の体に衝撃が加わり宙に投げ飛ばされた。
しかし、その衝撃はトラックに撥ねられるような強いしょうげきではなく、ドンと突き飛ばされるような衝撃だった。
「危ないねぇなあのトラック。」
「どう…して、」
目を開けるとそこには砺波くんが私を抱えるような形でいた。そして、元凶のトラックはというとそのまま走って言ってしまった。
でも私はそんなのどうでも良くなるほど今のこの状況が嬉しくて、恐怖で止まっていたはずの涙が言葉にならない嗚咽と共に溢れてきた。
「あ、あぁぁ、砺波くん!」
「どうしてって、そりゃ、こころさんを救いに来たからだよ。」
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます