第19話 ヒーロー

 こころさんの顔が驚きに変わっていくのが分かる。


「んで、なんで!どうしてそんなことを隠してたの!貴方は、自分が死ぬとわかっていながら私に近づいた!学校で後ろ指指されてる私に近づいて自分は辛くないと言い聞かせてたの!」


 その言葉に涙か重なる。怒りでも、驚きでもない僕に向けられた悲しみ。


「そんなことは無い!」


 僕はそう断言して立ち上がる。こころさんがビクッとしながら涙で濡れた顔を上げる。


「だったらなんだて言うのよ!」


「確かに僕は自分の命は残り少ないとわかっていた。それでも、君を見過ごせなかった。君を救わなければ僕の人生は空っぽだ。空白のなんの意味も無いものになってしまう。だから君を救うことにした。」


「そんなのただの自己満足じゃない!」


「あぁ、そうさ。僕の自己満足だ!だって、僕は君g…」


 そこまで言って僕の体から力が抜ける。


(嘘だろ、こんなところで。)


 遠くで誰かが僕を呼ぶ声が聞こえるような気がして僕は完全に意識を失った。


        ◇◆◇


『余命とは残りの生きられる時間であって、決して健康に生きられる時間ではない。そこだけは勘違いしないで欲しい。』


 いつぞやに聞いた医師の言葉が頭を巡る。そうだ。余命があと5ヶ月あるからってその間健康に生きれるとは限らない。

 全く僕はなんて大事なことを忘れていたのだろうか。

 ゆっくりと目を開ける。動かせる範囲で頭を動かすと腕や体に点滴から何やらよく分からない機械にくっつけられたチューブが刺さっている。


「お久しぶりだね。疾風くん。」


「あぁ、あの時以来だね。ゆかりさん。」


 声がかけられた方を見るとゆかりさんが宙に浮かんでいた。それになんだか少し体も透けている気がする。


「こころさんは今どこにいるの!」


 僕が倒れる前まであの様子で今ここにこころさんの姿はない。あの状態のこころさんを1人にするのは今の僕が言えることじゃないが危険すぎる。


「お姉ちゃんあなたが寝てた3日間ろくに寝ずにここにいて流石のお医者さんも心配になってさっき帰らされたよ。」


 その言葉を聞いた瞬間僕はベットから起きて病室から出た。

 壁に這いずりながら進んでいく。


「馬鹿なの!あなた死にたいの!」


「こんな体もう死んでるも同じだ。それに僕はまだこころさんを助けれていない。だから僕は行かないといけないんだ。」


 立っているのもやっとの体に鞭を打つ。


「そっか。そっか!なら頑張れお姉ちゃんのヒーロー。頑張れ!私たちのヒーロー!」


 あぁ、そうさ。僕はヒーローだ。たった1人の少女と1人の救いたい人の為の…


 ヒーローだ。

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