第四章 能力祭編(後編)

1話 休日。

 ――全ての予選ブロックが終わり、決勝ブロックのスタートには数日かかるようで、今日明日は丸1日休日になるらしい。


 そして、休日になんの予定もない俺は、部屋を出て散歩をすることにした。


「……。はあ、昨日までの騒がしさが噓だったかのような静かさだな…」


 外に出ると虫の声が聞こえ、風が吹いて草たちが心地よい音を奏でている。目を閉じればそこには辺り一面の草原が広がっている――――ような気がする。


「――たまには外を歩いてみるのも、いいもんだな」


 俺がそんなことを考えている、そんな時だった――――。


「おや、こんなところであなたにお会いできるなんて、わたくしは運がいいですわね」


 背後からそんな言葉が聞こえ、俺は声のした方へ振り返る。するとそこには、黒髪が腰くらいまで届く長さのストレートロングに、美しく整った顔立ち、普段から目を閉じているのに何もかもを見ているかのような目、学園最強と呼ばるほどの強さを誇る。そんな彼女の名は――――


「――――――凛堂かるた」


「あら、やはりわたくしのことを知っていましたのね。まあ、わたくしもあなたのことは知っていますわよ、橘瑞人さん」


 学園最強の彼女の声は楽しそうだった。何というか、尊敬している人に偶然出会った感じ。


「そういえば、凛堂さんは俺に何か用事があったんじゃないですか?」


「――ッ。その、あなたはどうしてそう思ったのですか?」


 少しだけ、彼女の雰囲気が変わった。何かを聞いて動揺したかのように……。


「えっと、先ほど俺に会った時、その、雰囲気が嬉しそうに見えたので……」


「そうですか、そうなのですか、見えたのですか……。なるほど、あなたにも見えているのですね」


 俺には、彼女の言っていることが理解出来なかった。――見えた?一体何が見えたというのだろう。俺には何も見え――――


「――え?」


 かなりぼやけてはいるが、確かに彼女の後ろに何かが見えていた。


「もしかして、今初めて見えたのですか?つまり、先ほどは偶然いや、勘が鋭かっただけですか……」


「あ、あの、それで、さっきの話なんですけど……」


「そうですね、特に大した用事ではありませんけれど、一度あなたとゆっくり話してみたかったのですわ」


 彼女は淡々と、爽やかで楽しそうに、そう言った。


「あはは……。本当に大した用事じゃなかった。けど、いいですよ。俺も凛堂さんとは一度ゆっくり話してみたかったですし……」


「そうですか、それならこの学園近くの喫茶店にでも行くとしましょうか……」


 その後、俺は彼女と一緒に学園近くの喫茶店へと向かった。


        ◆


「――――それで、あなたの価値数字は元々0でランクGだと、わたくしは聞きましたわ。それでもあなたは、学園最強の座を狙っている。そうですわね?」


「はい、その通りです。俺は価値数字が0でした……。だからこそ、俺はこの能力で頂点を目指します」


 彼女のオーラが一瞬で変わった。それは、学園の頂点に相応しい――最強のオーラだった。


「――瑞人さん、この後少しだけいいかしら?」


「はい、俺はいいですけど……、何をするんですか?」


「この後、わたくしと模擬戦をして頂きたいのです」


 変わったのはオーラだけではなく、喋り方も少しだけ変化していた。


「は?今、なんて言いました?も、模擬戦?俺と凛堂さんが?」


「ダメですか?わたくしはこの模擬戦、あなたにとって悪くない提案だと思っていますが、もしかして違いましたか?」


 俺は驚いた。まさか、凛堂かるた本人から模擬戦の誘いがくるとは思ってもいなかった。


「いえ、何も間違っていませんよ。少し驚いただけですから……。それに今日、俺から凛堂さんにお願いしようと思っていたので、断る理由はありません」


「なるほど、つまり今日の出来事はすべてあなたの計算通りだったわけですか、これは一本取られましたね」


「ははは。そんな、たまたまですよ、たまたま……」


 俺の言葉を聞いて、彼女はクスッと笑った。


「そうですか、それならそういう事にしておきますわ」


 彼女の雰囲気は戻り、喋り方も最初の頃に戻っていた。

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