最終話 これにて失踪事件は無事解決!
『それより只今を持ちまして新たな時代の到来を祝福しまして世界救済の祝賀会を執り行いと思います。皆さん、秩序を持って盛大に盛り上がりましょう!』
「「「「「おぉーーーー!」」」」」
拡声器のような魔道具を使って聖女三姉妹の長女ミファーが城下町を見下ろせる城の一角から祭り開催の宣言をすると多くの人達が拳を天に突きあげて気合を入れるように叫んでいった。
そんな姿を見てミファーの隣に居る三女ユーナは「お姉様達、早く行きましょう!」と足早にこの場を立ち去り、同じく彼女の隣にいた次女エンリは「もう灰かぶりと呼ばれないのね」と今となっては懐かしい思い出を思い出しながらミファーと一緒に立ち去っていく。
そんな彼女達の光景を一緒になって眺めていたカイ、マリ、ライナ、シルビアはカイの「それじゃあ、俺達も行くか」という言葉で歩き始める。
今や聖王国はどこもそこもお祭り騒ぎだ。
まるで私腹を肥やした貴族のどんちゃん騒ぎのようだが、世界が救われておいて何もないというのはあまりにも寂しいだろう。それに戦争で頑張った人達の労いは必要だ。
「頼奈、シルビア、どこ行きたい?」
「「串肉!」」
「ほほぅ? しょっぱなから串肉とはなかなかのチョイスね。どうやら今日はガッツリ食べたいみたいだね」
娘二人の言葉にマリもカイも思わずにっこり。というか、どんな言葉であろうと口元が緩んでしまうかもしれない。
ライナは近くに串肉の屋台を見つけるとシルビアの手を引いて走り出す。
その姿を見て「はぐれるなよー?」とカイが言っていくと隣でマリが声をかけてきた。
「懐かしいね、この感じ」
それはまだカイとマリがこの世界に来る前の事、まだ幼かったライナを抱えて一緒に地元の夏祭りへと行った時のことだ。
その時の頃を思い出して言うマリに対し、カイも思わず思い出して返答していく。
「そうだな。君が美人過ぎて困ってたよ。俺が頼奈と一緒に屋台の商品を見ていたら、その僅かな隙の間に君が普通にナンパされてたのはもはや思い出だな」
「あったね~、そんなこと。既婚者って言っても食い下がらない輩もいた時は困ったもんだよ」
「手首捻って屈服させながら『私より強かったらね?』と言ってた君が何を言ってるのやら。それに今思えばあの頃の俺は君より普通に弱かったし」
「それはもう愛の強さがあったから。どれだけパパが弱かろうともその強さの前には私は無力なの。つまり惚れた方が負けって奴ね」
「......この年になるとそういう話はむず痒いんだが」
「ダメよ、しっかりと愛は伝えて行かないと。これが夫婦円満のコツ。気持ちは口に出して初めてハッキリ伝わるの」
そんなマリの言い分に「こういう部分がソラとそっくりなんだよな~」とカイは感じた。
ということは、もしかしなくてもソラがあの時連れて行かれなければ今頃隣にいる相手は彼女なんじゃないだろうか。
「あ、今他の若い子のことを考えたでしょ?」
「え、いや......はい。ソラに似てるなと思っただけで......」
「あーやだやだ。男ってのはすぐに若い子に乗り換えようとするんだから」
「いやいや、待ってくれ。別に乗り換えるなんてするわけないし、それに君は今でも奇麗で美しいじゃないか!?」
その目にマリは思わず瞳を輝かせて若干赤らめた頬をそのままに「本当?」とカイに聞いていく。
それに対し、カイは「当たり前だろ」とそっと彼女の頭に手を置いた。
すると、マリは撫でるなら撫でろと言わんばかりにカイに撫でを要求し、彼は周りの視線の羞恥心を殺しながらその要求に答えていく。
マリが満足するまでやると今度彼女はカイの腕を取って抱きついた。
その光景は完全にバカップルのそれである。
そんな光景を串肉を買って食べながら見ていたライナは「ママばっかりズルい!」と突撃し、シルビアは「ゲロ甘ですね」と言って歩きながら近づいていった。
変わらない仲の良さで色んな屋台を見ていると突然カイ達の後ろから「あー!」と大きな声が聞こえてくる。
カイ達が背後を振り向いて最初に反応したのはライナであった。
「あ、ソラお姉ちゃん達だ」
そこにはソラ、エンディ、キリア、そしてケイの姿があり、カイはケイとバチッと目が合うと思わず気まずそうに目を逸らしていく。
その一方で、ソラはずかずかと近づいていくとマリに食って掛かった。
「マリさん、もうカイちゃんは皆のものです! ここで会ってしまった以上私達も混ざる権利があります!」
「ふふっ、考えが見え見えなんだよ、ソラちゃん。そう言いつつ正妻の座を奪おうとしてるぐらい。
だけど、その心意気や良し! やってみるがいいさ」
マリとソラの気迫はオーラを生み出し、そのオーラからはトラと龍が見える。
別に犬猿の仲というわけではないので良しとするが。
あの二人にとってはあのように張り合ってる方が楽しいのだろう。
その様子をキリアはあわあわした様子で眺め、エンディは苦笑いを浮かべているとふと彼女はカイとケイの様子に気付いた。
そして、話のきっかけを作るようにカイに声をかけていく。
「カイ、ちゃんと楽しめてる?」
「あ、あぁ、楽しめてるとも。頼奈もシルビアも楽しそうだしな。
それにエンディの本当の姿は初めて見るが随分と可愛い系よりなんだな」
「でしょー」
エンディはニカッと笑った。その表情を見てカイは思わず目を見開く。
これまでのケイをベースとした肉体であったエンディは彼女のクールな印象を引き継いで僅かに口角を浮かべるぐらいしかなかった。
しかし、それが無くなり本来のエンディはどうやらカイが思ってる以上に表情が豊からしい。
まぁ、例え表情に出なくても尻尾の揺れで好意が分かっていたが。
『気を遣われてますね』
『......みたいだな。どうやらそういう機微には相変わらず鋭いらしい』
シルビアからのコネクトによる念話がカイに聞こえてきた。
気を遣われてるのはカイとて理解している。しかし、どう話かければいいのか分からないのだ。
カイの責任ではないにしろ、彼はケイだけ唯一救えなかった。
それにこんな年老いた姿となった自分に対して彼女がどう思っているのか。それが少し怖い。
これまでの友人のように受け入れてくれると信じているが、それでももし「もう少し早く来てくれたなら」とでも言われようものならきっと何も言い返せない。
「相変わらず、変な所で小心者ね」
カイはバンッとマリに背中を叩かれたと思いきやそんなことを言われた。
思わず振り向けば「大丈夫」と力強い目がバチッと合う。
カイは一つ息を吐いてケイの方へと向き直せば彼女もソラとエンディから同じようなことを言われたのかそっとカイの前に出てきた。緊張しているのか顔が赤い。
カイはここは男であり大人として「少し話せるか?」と聞き、ケイが静かに頷くと二人で話せる場所に移動していった。
二人がやってきたのは聖王国の観光名所のひとつである女神の噴水だ。
そこには多くの人が集まっていて、家族だったり、友人だったり、冒険者パーティだったりと様々なグループが存在している。
その近くのベンチに二人が座ると最初に口火を切ったのはカイだ。
「ケイ、助けるのが遅くなってごめんな」
その言葉にケイは即座に首を横に振る。
「そんなことない。それにカイ君は悪くない。
確かにカイが助けに来てくれることを願ったけど、どう足掻いてもそれは叶わぬ願いだと思ってたから。
でも、カイ君は助けに来てくれた。今こうして私が存在してるのが何よりの証拠」
「そっか」
カイは安堵の息を吐いた。そして、いきなり重たい話を切り出してしまったことを取り繕おうと軽い話題を出した。
「そ、そういえば、俺のことわかるんだな。やっぱりエンディやソラに教えてもらったのか?」
「ううん、一目でわかったよ。確かに一人でに歳を老いてたことにはびっくりしたけど、私が知ってる頃のカイ君の面影があったから。それに必死に頑張ってる姿は今も昔も変わってないみたいだし」
「今も昔も......?」
カイはその言葉に疑問を感じた。すると、ケイは嬉しそうに僅かに口角を上げると自分のこめかみ辺りに人差し指を当てた。
「私の記憶にもエンディの記憶があるの。
私の体が彼女の記憶を引き継いだというべきかしらね。
だから、なんというか......私とエンディは別人だけど、私はエンディであり、エンディは私であるの。
だから、知ってる。カイ君のこれまでの苦しみも頑張りも何もかも」
「......当たり前のことやったまでだよ。それにこれは一種の罪滅ぼしでもある」
「罪滅ぼし?」
「俺は一度万理という女性と一緒に家庭を築いていく上で過去の悲劇を忘れようとした。
つまり君達の存在を俺の記憶で過去にしようとしてたことだ。
だが、結局万理も頼奈もこの世界に連れて行かれて俺は過去をうやむやに出来ないんだと悟って君達も探すことを決めた。だから、罪滅ぼし」
その言葉にケイはそっと「カイ君はバカだね」と呟いた。その表情は嬉しそうで。
それはきっと自分ならその人生に絶望して立ち上がれないだろうと思ったから。
それでも立ち上がれる君はバカカッコいいのよ。
「カイ君はこれからどうするの? もとの世界の戻るの?」
ケイがそう聞いてみればカイは苦笑いした。
「いや、もう戻ったって俺達の居場所は無いさ。こっちの世界の半年が俺達がいた世界では十八年の月日になる。今頃戻ったって履歴上は死亡扱いさ」
「そっか。それじゃ、もう家族には会わないんだね」
「俺はな。だが、ケイや他の皆はそう思ってないかもしれない。だから、一度皆に―――」
「私達は残るよ。もうそう決めてある」
ケイはカイの目をじっと見るとそう伝えた。その目には寂しさと覚悟がある。
カイにはケイ達がどんな話をしたのかわからない。
しかし、それが生半可な覚悟じゃないことだけは伝わった。
だから、答えるべきは―――
「そっか。それじゃあ、これからもよろしくな」
「うん!」
嬉しそうに頷くケイを見てカイは「そろそろ戻るか」と言って立ち上がると彼女はそっと彼の袖を掴む。
その行動に思わず振り向けばケイはとても恥ずかしそうに顔を赤らめ、様子を伺うようにカイの目を見ていた。
構図的にそうなってしまっているケイの上目遣いにカイは思わずドキッとし、同時に思い出す―――ケイが自分に好意を寄せていたことを。
それはいつかのエンディに聞かされた話。
それがこの瞬間に思い出されるのであれば、これはもしかしなくても―――
「カイ、聞いて欲しいことがある」
*****
楽しい時間はあっという間に過ぎ、辺りはすっかり暗くなっている。
そんな中、城の庭園では催しを開くようにテーブルや椅子があり、その上には料理がズラーっと並べられていた。
そこにはマリ、ライナ、シロムであったり、ソラ、エンディ、キリア、マコト、ツバサ、ケイ、ミスズ、テツヤの同級生達と旅の仲間達、エンリ、ミファー、ユーナの聖女三姉妹、お忍びでちゃっかりいるルナリスとテュポーンの二人と大勢がそこにいた。
そして、遅れてきたカイがマリの横に並べば彼女から話しかけられる。
「しれっと女の子増やすなんて......これが英雄色を好むってやつ?」
「何も言わんでくれ。それに許可を出した時点で君も同罪です」
「まぁ、なんて横暴な主人なのかしら」
そう言いながらも実に楽しそうに笑うマリに対し、カイは苦笑いを浮かべていく。
ようやく、ようやくだ。これで全てが戻った。
「パパ、そろそろ始まるわよ」
「あぁ」
これまでの長く辛い旅はこの時のためにあったんじゃないかとそんな風に思う。結果的に見ればだけど。
この失踪事件はこれにて解決。とんでもない展開ばかりだったがそれは異世界風味というやつで。
「えーでは、僭越ながらこの創造神ルナリスが音頭を取らせていただきます。堅苦しいことは言いません。盛大にパーッとやりましょう! カンパーイ!」
「「「「「カンパーイ!」」」」」
――――パァーン!
盛大にグラスが頭上に掲げられると同時に夜空に大きな花火が上がっていく。
それはいくつも重なり空を照らしていく。
これからもきっと大変なことが待ち受けているだろう。
しかし、皆がいれば大丈夫。もう失わないし、失わせない。
これがずっとずっと待ち望んでいた皆がいる光景だ。
「あぁ、酒が美味い!」
どうもおっさんです。異世界に渡って人探しの旅をしています~その男、無双しながら転移事件の真相を突き止める~。 夜月紅輝 @conny1kote2
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