第176話 見たかった光景
祝賀会と言えば正式な祝賀会はまだ後だが、今の彼女達にとってはもはやこの祝賀会を開くことに意義があった。
そんな人物の一人であるソラはエンディ、キリアと一緒に壇上に立つとカイやマリ、ライナ、それから同級生のマコト達、シルビア、聖女三姉妹などを集めて高らかに叫んだ。
「この度、正式にカイちゃんからの奥さんから第二夫人、および第三、第四までの許可が出たことを祝したいと思います!」
その言葉にマリとライナ以外は一斉にカイへと視線を向けた。
その重圧しか感じない目にカイは冷や汗をかきながら目線を逸らしていく。
お前、奥さんに許可取りに行ったのか、とでも言われているようだ。
カイが目線を合わせられない一方で、隣のマリはライナを抱きながら輝かしい瞳でサムズアップしている。
私が許可しましたと雰囲気で伝わってくる。
そんな彼女の姿を見て普通に日常生活が遅れる程度に復帰した彼女と会うのが初めてになるマコト達は一瞬にしてどういう人物が理解した。良くも悪くもソラに似た性格な人だな、と。
マコト達は戸惑うどころか「収まるべき場所に収まったな」としか思っていない。
というか、とっくにこうなる未来は見えていたし、本人達がそれでいいのなら外野が口を出すのはおかしいだろう。ましてや、カイの妻が許可を出してるならなおさらに。
「ふふっ、さすが私の分身及び娘ですね」
その時、すぐそばに置いてあった女神像からスッとルナリスが現れた。
しかし、今の彼女の肉体は天界にあるので現れたのは魔力体であるが。
幽霊のような存在のルナリスはそのような言葉を言うとマリへと視線を移していく。
マリからすれば初めてルナリスに会った瞬間だ。要旨は違えど全く同じ顔の人物が目の前にいる。
それに対し、マリは―――
「なるほど、私が女神的容姿と美貌の最たる所以か。初めまして、カイの妻のマリです」
「ふふっ、ご丁寧に挨拶してくださりありがとうございます。マリの母のルナリスです。
ということは、これでカイ様とは義母にあたりますね」
「パパの親族に神様が追加されましたよ。もっともとっくの前からそうですが」
「ガチで神話の世界にいる気がする」
隣から寄せられるシルビアの言葉にカイは思わず眉間を指で摘まんだ。
知らなかったとはいえ、カイはマリと結婚した時点でルナリスが親族として加えられていたのだ。
一体誰が信じようか、神様との親族関係なんて。
とはいえ―――
「
「それはもう文句なしにカッコよかったですよ。それこそ私がポッとなってしまうぐらい。ですよね? ソラちゃん」
「ふふっ、カイちゃんの魅力をここで語ろうなんて数十時間で足りると思ってるの?」
「お、私の知らないパパでマウント取ろうって? いいよ、乗ってあげる」
こう見てもソラがルナリスの依り代として選ばれた理由が納得する。
あれ? ソラって別にルナリス様の分身体じゃないよな? 劇的に性格が似てるだけだよな?
今にもカイの魅力を話しだそうとするソラを隣にいたエンディが止めた。そして、彼女の変わりに司会を進めて行く。
「少し話が脱線したけれど、これは単に皆で楽しくパーッとやりましょうってだけの会だから。国全体の正式な祝賀会はまた後日になる」
「要するにあたし達の現状を知って欲しかっただけです......はい。
私からすればこんなことをする必要は無かったと思うんですが......」
「何を弱気なことを! これからは私達の愛を紡いでいく新しい物語が始まっていくんだよ! そのスタートを派手にしなきゃ損だよ!」
キリアの弱気な発言にソラが喝を入れていく。これからカイの妻の一人になる身としてそんな弱気ではいかん、と。
ソラは予め持っていた果実水のグラスを掲げると盛大に叫んだ。
「私達のこれからの幸せを願って―――カンパーイ!」
そんなソラの熱に押されるようにマコト達も一瞬で目配せしていくとノリに任せろと言わんばかりに「カンパーイ!」と返していく。
目の前で騒がしい光景が行われてるのにカイは苦笑いをしながら軽くグラスを掲げていく。
その隣では「あの子と仲良くなれそうだわ」と意気込むマリの姿があった。
ライナも楽しそうで何よりだ。
「なんだかすごいことになりましたね、パパ」
「全くだ。だが、せっかくこうなったんだったら楽しまないってのも損だな」
カイは近くのテーブルにグラスを置くとシルビアを抱えていく。
彼女のことはすでにマリには通達済み&家族許可が出ている。
それにライナの友達を放っておくわけにもいかないだろう。
そこからはただやかましく過ごしていくだけだった。
他愛もない会話をしていったり、テーブルに並べられた料理を適当に食べて行ったりと。
そこにはどこまでも幸せな光景が広がっていた。
カイが望む全て......ではないが。
確かにこの光景はカイが望んだ光景だ。
自分の年齢は変わってしまったけれど、目の前にはかつて共に成長して「好き」とすら言えなかったソラ、変なバカを一緒にやったテツヤ、イケメンのくせに性格がやたらいいマコトとツバサ、グループのムードメーカー的存在のミスズ、生まれた時から近くで見守り続けたシロム、壊れかけの心を治してくれたマリ、愛する人と一緒に生み出した大切な娘ライナと彼ら彼女らがここにはいる。
どこからどう見ても大団円だ。
全ての仲間を見つけたのだから。
否、それは本当にそうなのだろうか?
カイは強欲になると決めた。
そう誓った時からずっと頭の片隅には考えていたことがある。それが今日わかる。
「カイ、ちょっといいかしら?」
そう言って声をかけてきたのは聖女三姉妹の中で一番関わりのあるエンリであった。
相変わらず髪の毛が半分ずつ白色、灰色となっているツインテールのエンリは鋭い目つきでカイを見る。
そんな彼女にカイは「何か悪い事したか?」と思っていると彼女の隣に来た侍女ルイスが代わりに伝えてきた。
「カイ様、お嬢様は非情に怒っています。なぜか分かりますか?」
「え、心当たりが―――」
「そう、お嬢様もカイ様のことが好きなのに全く見向きもされなかったからです」
「ちょっと。ルイス!? あんた何を言ってるの!?」
エンリは思わず慌てふためく。
侍女からの突然の爆弾発言。それも被弾したのは投げた本人ではなく自分の方であるから余計に質が悪い。
「ち、違うわよ。私は別にそんなことは......少ししか思ってないわよ」
「はい、デレ来ました~。ご賞味あれ」
「ルイス、あんた殴るわよ」
相変わらずエンリをからかうのが好きな様子であるルイス。
侍女としてあるべき姿なのかは甚だ疑問だが。
エンリは全く本題が進められないことに怒りルイスをこの場から追い出すと改めて本当の要件を伝えに来た。
「カイ、ルナリス様からの伝言。エンディを連れてきなさいって」
「......っ! それって!?」
エンリはただコクリと頷いた。そのことにカイは嬉しそうに笑う。そうか、本当に良かった。
その時、壇上に登ったルナリスがカイ達の様子をチラッと見ると「ここでサプライズがあります」と言ってこの場にいる全員を教会へと連れ出した。
教会に集まると中央の開けた場所に移動してそこにいたルナリスがエンディを呼び出していく。
そして、これから行うことを伝えた。
「皆様にはこの世界の命運を左右する戦いにおいて非常に尽力してくださいました。
そのお礼としては何ですが、本来の創造神の力が戻った以上様々なことが出来ます。
例えば、山を作ったり、海を作ったり―――人を作ったり」
その言葉にこの場にいるマリとライナ以外の誰もが理解した。
なぜルナリスのもとにエンディだけが呼ばれたのかも含めて。
「これから行うのは人を作るということです。
情報があればあるほどもとのあなた達が知っている人間を正確に生み出せます。
幸い、エンディ様の肉体は
ですが、神として望まぬものを与えるべきではありません。なので、問いましょう。
あなた達はもう故人となった
忘れてはならない。この世界で唯一救えなかった大切な友人の存在を。
ケイはエンディを救うために死にゆく自分と引き換えに魂を入れ替えてエンディを生きながらえさせた。
その結果、エンディは今こうして生きているがケイはもうこの世にはいない。
そんな失った仲間が返ってくる。それはどんなに魅力的な言葉か。
しかし、一度死んでしまった人をこちらの都合で勝手に蘇らせていいものだろうか。
「私は会いたい」
最初に声をあげたのはエンディであった。
彼女はケイこそが命の恩人なのだ。
命の恩人に再び会えて感謝の言葉を送れるなどそれほど良いことはない。
「俺もだ」
カイもエンディに続いた。
強欲に全てを取り戻すならケイもいてこその「全て」である。
それが本当に見たかった景色なのだから。
二人の言葉にポツリポツリと声が上がった。そして、ケイを蘇らせるという意見はやがて総意となった。
どんなにその死生観を曖昧にする事象に対して言い訳しようと突き動かす感情こそが本物なのだ。
それに神様がそれを黙認してるのならもはや欲を突き通せばいいだろう。
ルナリスは「わかりました」と言ってエンディの頭に触れていく。
「蘇らせたい人のことを思い浮かべてください。詳細の方がいいです」
エンディは目を瞑り過去を振り返る。これまでのケイとの記憶を。
楽しかった思い出、嬉しかった出来事、抗うことも許されなかった悲劇、交わした約束―――その全てを。
ルナリスはエンディから読み取った情報をもとにもう片方の手で背丈ほどに手を掲げるとその下にはゆっくりと魔力が集まり始めた。
魔力は形を作り、透過率の高かったその肉体は少しずつ透過率を下げて人間の肉体へと近づいていき、長い黒髪の少女を作り出した。制服を着ているのはルナリスのオマケか。
それと同時にエンディの肉体も少しずつ変化していった。
背丈はやや低くなり、美人な顔立ちは可愛い系に寄って、長い水色の髪はボブほどの短さになっていく。
本来のエンディの姿だ。
ルナリスが全ての肉体及び肉体やエンディの記憶にあった情報をもとにケイを作り上げると彼女は自分の手を見て「死んだはずじゃ......」と呟いた。
「ケイちゃん!」
「っ! エン......ディ? エンディなの?」
ケイにエンディが抱き着いていく。
そのことにケイが驚いているとエンディが「私だけじゃないよ」と言って指をさした。
その方向をケイが見ればそこには散り散りになったはずの仲間の姿がある。
見たことない顔ぶれの人もいるけど、あの大人の男の人の顔って......まさか!?
「ケイちん!」
「ケイちゃ~ん!」
エンディに続いてミスズ、ソラとケイに抱きついていった。
何が何だかわからない。だけど......そうか、もう一度会えたんだ。
体温を感じる。ニオイを感じる。圧を感じる。それが何より嬉しい。
ケイはそっと涙を流す。
これが例え夢であったとしてもこれほど嬉しいことはない。もう一度皆に会えた。
そんな彼女達の光景を見てカイはそっと後ろを向いた。
マリはカイの変化に気付きポンッと肩に手を置き、シルビアは容赦なく尋ねた。
「パパ、泣いてます?」
「......歳取ると涙腺が緩むんだよ」
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