きっと明日も笑ってる

日野あおば

きっと明日も笑ってる

 ミサキくんは、高校生です。

 学校へ行けば、多くはないものの、話せる友人がいます。笑顔で話せる友達がいます。

 クラスにいじめはありません。得意不得意、好き嫌いはありますが、クラスに困った人はいません。先生の中にも、得意不得意、好き嫌いはありますが、特別困った人はいません。

 部活にも入っています。正直なところ、いつも面倒だと思っています。休みの日は心の中でガッツポーズを決めています。ですが、退部したいと思うほど嫌いではありません。


 ミサキくんは、朝早く起きられません。夜は、そこそこ長く起きています。お父さんは、起きられない理由がそこにあると考えました。

 ある日の晩、お父さんはミサキくんに言いました。

「ミサキ、夜遅くまでなにをしているんだ。いつも朝起きられないのだから、早く寝なさい」

 ミサキくんは、「あー」と「うー」の真ん中の声で、適当に返事をしました。


 

 夜、ミサキくんは、ゲームをしていました。友達のほとんどがやっているゲームです。

 ミサキくんにとって、そのゲームは楽しいものでした。だから、苦ではありませんでした。


 ミサキくんは、いつもより早い時間にゲームを閉じました。寝よう、と思いました。明日がつらくなるからです。


 横になって、布団を被りました。目も瞑りました。ですが、眠れません。

 明日の時間割を思い出しました。頭の中で、忘れ物がないかを確認しました。ですが、結局不安になったので、布団から出て確認しました。大丈夫でした。布団に戻ります。


 ミサキくんは、明日の授業のことを考えました。宿題があったような、小テストがあったような。明日、学校でやろう、と思いました。今日は早く寝るのだから、早く起きられるはずだ。でも面倒だなあ、と思いました。


 ミサキくんは、明日の部活のことを考えました。最終下校時刻まであります。軽く内容を想像して、いやだなあと思いました。簡単なやつだったらいいな、好きなやつだったらいいな。ですが、大体の内容は、すでに部長が部員全員に伝えていました。そのため、なにか事件でもない限り変わりません。面倒だなあ、とミサキくんは思いました。


 友達とは話したいなと思いました。遊びたいなと思いました。


 寝たら、明日がやってきます。すうっと意識が沈まれば、すぐに明日がやってきます。目覚ましが鳴ります。朝ごはんを食べます。通学します。友達と少し会話をして、授業が始まります。何度か休み時間を挟んで、その度にお喋りを中断させて、授業を聞きます。空腹と眠気の連合軍と戦いながら、ペンを動かします。それが終わると部活が始まります。空の色が変わるまでやります。帰りに友達と談笑をします。もしかしたら、どこかで一緒になにかを食べるかもしれません、飲むかもしれません。それでも長くはいられません。じゃあねと言って、家へと帰ります。


 ご飯を食べます。お風呂に入ります。髪を乾かします。歯磨きをします。そしてようやく、自分の時間が始まります。宿題やらなきゃな、小テストがあった気もするな。でも、ちょっと遊びたいな。疲れたから、休みたいな。勉強は「学校」のもの。「自分の時間」には、ならない気がする。自分の時間、守りたいな。削りたくないな。


 そうやって時間は過ぎていきます。一日が終わります。


 布団の中のミサキくんは、それをわかっていました。なんとなく、学校がいやでした。クラスに問題があるわけでも、先生との間に問題があるわけでもありません。部活にも、特定の誰かとの間に問題があるわけでもありません。それでも、なんとなく重たい気分でした。


 今日のこの時間が終わらなければいいのにと、ミサキくんは思いました。明日が来なければいいのにとも思いました。今日は、夜遅くまでゲームはしていません。早い時間に布団に潜って、目を瞑っています。いつでも眠れる状態です。明日が来ないことを、この自分の時間が終わらないことを願いながら、ミサキくんは少しでも気分の良い明日を望みました。



 ミサキくんは、今日も同じ時間に起きて、笑顔で友達とお話しています。

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