赤ずきんは森の中
目が覚める。
森の中。
私は逃げてきたのだった。
お菓子の家から。
◆
言われて、鬱陶しいほど言われて。
そこに行った。
病気は治った。
それはもう、綺麗に。
ヒトではなくなった。
外法に落ちたモノ。
そういうものになった。
そうして逃げた。
◆
森は広い。
どこまでも続いている。
こんな姿になっても食べ物は必要だし、睡眠なんかも相変わらず取らねばならない。
厄介なものだ。
けれど仕方がない。
逃げ続けるには生きなければ。
これ以上生きていたくなくても、何もかもうんざりでも、私は死ぬのが怖かった。
臆病者。
そう。
勇気なんて最初からない。根拠のない楽観が怖い物知らずの行動をさせていただけ。
種を明かせばなんてことはない。だけどきっとだいたいの人がそうだし、って私はもう、ヒトではないのだけれど。
そんなことはいいんだ。もう。
とりあえずは生き延びる方法を見つけないと。
けれども歩くのが億劫で、身体が重くてたまらない。
休んでも休んでも不調は治らず。
おかしいな、病気は治ったはずなのに。
――あれを探して■■するまで私は死ぬわけにはいかないんだ。
ちらつく思考。浮かんではすぐにばらばらになる。
どうでもいいんだ、何もかも。
平穏に生きられさえすればそれでいい。
復讐なんてない方がいい。
恨みも憎しみもない方がいい。
感動も喜びもない方がいい。
何もかも埋めた静寂がいい。
それなのにたびたび浮かんでくるそれが私を燃やしてしまう。
羽を生やし、牙を剥き、対象物を破壊し尽くす衝動。
そんなものはない方がいい、自分を燃やして、灰にして、
それでも死なない。
燃やしているのは精神だから。
身体を燃やすのはできない、そういう風に作られているから。
精神しか燃やせない、そういう風に作られているから。
何もかも諦めているのにまだ生きている。
諦めていないから生きているのか。
捨てられないから生きているのか。
わからない、何もわからない。
森はひたすら静かで、何の音もしなくて、私の存在だけがしらじらしくその身を主張する。
落ち葉を踏む音。
木の根を蹴る音。
石を踏む音。
それに紛れて聞かないふりをしていた、鼓動の音、血液の音、呼吸の音、衣擦れの音、うるさい、うるさい、何もかもがうるさい。
破壊はできない。禁じられているから。
後退もできない。禁じられているから。
おかしい、おかしい、こんなのはおかしい。
どこまで進めば楽になるのか。
どこまで進めば解放されるのか。
二度と戻ることはない、ヒトでなくなってしまったから。
二度と許されることはない、凍結されてしまったから。
それでは私はどこへ行けばいいのか。
どこにも行けない。
ここにしかいられない。
停滞。そこでしか生きられない。
永遠に出られないし出たくもない。
森の中、そこをさまようだけ。
ずっと。
■■を恨みながら。
赤ずきんは森の中。
赤ずきんは森の中 Wkumo @Wkumo
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