春日さんと大垰先輩

かなた

大垰先輩と私

 こんにちは、皆さん!!

 私、春日桜って言います。

 今私には大好きな人がいるんです。

 とっても素敵な人なので、良かったら、私の話、聞いてくれません?


 ◇◇◇◇


 初めて彼に会ったのは、中学生1年の春。

 文芸部に入った私は、ほかの1年生と共に歓迎会に出席することに。


 歓迎してくれる先輩達は皆優しくて、楽しい会だったけれど……。



 一人窓際で読書をしている2年生が。

 サイズが合ってないのか時々ずり落ちる眼鏡を直しながら、熱心に読み込んでいる横顔はなんだか可愛らしくて。


 時々思い出したようにノートに走らせるペン。

 真剣な眼差しに思わずキュンとする。


 結局それ以降会がどう終わったのか覚えていない。

 先輩を見詰めているだけで時間が過ぎてしまったから。


 いつの間にか閉会になっていた歓迎会の後、先輩女子がヒソヒソと耳打ちしてきた。


「アイツはやめといた方がいいよ。変わり者だから」


 それだけ言うと先輩女子は去っていった。



 しばらくは部活の度に先輩をただ眺める日々が続いた。

 自分の創作が手につかず、部活の課題も遅れ気味だったけれど、そんな事よりもただ、目を奪われるのだ。


 ところが、そんなことを繰り返しているある日のこと。


 いつものように先輩を探していると。


 なんと、先輩がこちらに向かって歩いてきた!?


 そして私の前で立ち止まり、


「君、いつも僕の事見てるみたいだけど、何か用でも?」


 !!


「そっ、それは……」


 言い淀んだ私を気にもとめず、先輩は更に続ける。


「君、いつも課題遅れてるよね?僕の事見てるより集中した方がいいよ?」


 ――! そうだ!


「あっ、あのっ!課題の創作について先輩に相談したくて……でもなかなか勇気が出なくて……ごめんなさい」



 咄嗟に思いついたその場しのぎの言い訳だが、あながち嘘ではないのでセーフ!


「なんだ、そういう事?ならもっと早く言えばいいのに。僕でよければ相談に乗るよ。文章のことならね」


 なんという棚ぼた展開!


 我ながら咄嗟の閃きは天才的だったわ!!


 その日から先輩と私の交流が始まったの。


 先輩と直接話せるようになって、ますます部活の時間が楽しくなった。


 さらに私の創作も先輩のおかげでとても捗るようになって。

 期日を守れるようになったばかりか、部長に褒められるようにもなってきたの。


 先輩の知識量、考察力、アドバイス力は本当に凄くて話してるだけでも勉強になるし、創作のアドバイスも的確だった。

 後から知ったのだけれど、どうやら学校始まって以来の天才と言われているそうで。


 先輩のお陰で私の世界が広がったし、文学への造詣が深い先輩と話すことで、自分の筆力もほんのり上がったような気がした。


 確かにちょっと独特な考え方をしていたけれど、話してみれば結構話しやすいし。ますます先輩への尊敬と恋心が育っていくのが分かった。



 ◇◇◇◇


 そうこうしてるうちに先輩は3年に、私は2年に進級し、あっという間に文化祭の部活の催し、短編コンクールが始まったの。


 今回は敢えて先輩からのアドバイスは貰わなかった。今までのアドバイスを貰い続けて培った技術がきちんと身についているか確かめたかったの。


 先輩は金賞3連覇がかかっている大事な舞台。私も出来るだけ近づきたくて死ぬ気で頑張った。


 審査は部長と副部長の持ち点と、文化祭に来てくれたお客さんの一般投票。


 ドキドキしながら結果を待った。



「では、結果を発表します」


 部長が厳かに告げる。


「金賞、大垰!!銀賞、春日!!銅賞…… 」


 ?!


 私が銀賞!!!


「なお、金賞と銀賞は一般投票同数でね。どちらも面白かったけれど私と副部長の一存で、より文章力が高かった大垰を金賞としました。受賞者の皆、おめでとう!!」


 なかば放心状態となる私に、部長が声をかけてきた。


「よく頑張ったね!入ってきた頃はぼーっとしてて大丈夫か心配だったけども、成長したもんだ。」


「あ、ありがとうございます!」


 しかも先輩と一般投票で同数…?!


 光栄すぎてもう死んでもいい!!


「春日さん、やるじゃない!」


 そう声をかけてくれたのは――


「大垰先輩!!」


「僕と張るなんてなかなかの成長ぶりだよ!アドバイスしてきた甲斐があったね。今回は自力で書きあげたのも頑張ったね、僕も君の作品を楽しませてもらったけど僕の言葉が血肉になってるようでとても嬉しく思う。」


「先輩……!!」


 感極まりすぎて涙でぐちゃぐちゃになった顔を見せられず、下を向いていたら、


「ほら、これで涙拭いて?」


 ポケットティッシュを、差し出してくれる。


 ますます涙が溢れてきて、先輩を困惑させてしまった。



 ◇◇◇◇


 そしてさらに月日は過ぎ。先輩の卒業式がやってきた。


 文芸部の先輩達を後輩一同で見送る。


 解散になる頃、部長が、そっと私に耳打ちした。


「君のお陰でうちのエースが楽しそうに笑うようになった。感謝してるよ!!」


「えっそれって……」


「早く行かないと大垰帰っちゃうぞ! 急いで追いかけな!!」


 !!!!


 そうだった!急がないと!!


 慌てて学校を去ろうとする大垰先輩に追いついて。


「先輩!!あの……その……」


 私が言い淀んでいると、先輩はふふっと楽しそうに笑って、制服の第二ボタンを引きちぎった。


「君が欲しいのはこれ、で合ってる?」


「合ってます!!!」


「まさか僕のボタンを欲しがる女子がいるなんて思いもしなかったけれど。ありがとう!」


「そんな……! お礼なら私の方が沢山言いたいのに!!」


 また私の目が潤むのを見てとった先輩はすかさずハンカチを取りだしておもむろに私の涙をふき取った。


「そんなに泣かないでよ。これもあげるから。」


 そう言って小さな紙切れをくれた。


 よくよく見るとそこにはLINEのIDが!!


「え、先輩これ――」


「君と文学について語り合うのはやぶさかでないからね。文章のことならいつでも連絡くれて構わないよ」


「ありがとうございます!!」


 そうして私たちは交流を重ね、今私は高校三年生。付かず離れずの関係が続いてるけど、とても楽しいです。


 いつか先輩にちゃんと告白しなくちゃ。

 皆、話を聞いてくれてありがとう!

 私の話はここまでだけど、次話す時には関係が進んでるといいな。


 では、いずれまた!!


 ~完~

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春日さんと大垰先輩 かなた @kanata-fanks

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