6 トンネル

 まだまだ本はたくさんある。だが、少し休憩しよう。

 ソファーを見つけ腰を下ろした。

 胸に重いものを感じる。ぼーっとして何も考えられない。

 辺りを見渡してみる。本当に沢山の本がある。

 結構歩いて奥の方へ来たと思っていたが、まだまだ奥は暗く先は長いようだ。

 こうしていると世界にひとり、取り残されたように感じる。

 だが、本は良いな。

 様々な世界があり、読んでいると自分もその世界にいるような気持ちになれる。

 もちろん、痛くて苦しい世界もある。

 目を逸らしてばかりもいられないよね。

 自分の中の光と闇。一つひとつ紐解いて、向き合おう。


 少年の世界は自由だ。

 あらゆることが冒険で、だから恐ろしくもある。

 未知とは、知らないとは恐ろしい。

 一つひとつ、未知を既知にしていく。

 いつからだろうか、そのままを表現できなくなった。

 泣けなくなった。泣きたくても、涙を押さえてしまい流れてこない。

 大きな声を出せなくなった。

 感情を抑えるようになった。

 言葉を自分の中に閉じ込めるようになった。

 感じたものを、見て見ぬ振りをするようになった。

 伝えることが怖くなった。

 人目を気にするようになった。

 人の目が怖くなった。

 

 歌うことを通して、大きな声を出せるようになった。

 自分と向き合うようになり、自分の中にある感情を知り、向き合えるようになった。

 言葉を、想いを、文章をかく事により表に出せるようになった。

 歌や文章、朗読で感情を表現できるようになった。

 知りたい、知って欲しい。だから頑張って伝えていく。

 

 まだまだ怖いことは沢山ある。

 でも、一歩一歩、できることからやっていく。

 

 東京は怖いところなのかもしれない。

 田舎者にとっては、都会というだけで萎縮してしまう。

 でも、田舎だって物騒なことはあるし、夜道は都会より暗くて怖い。

 しかし思い出してほしい。

 東京に住む人の多くは、同じように田舎から出てきたもの達だ。

 長らく住んでいるものも、遡ればどこからか越してきたもの達なのだ。


 世界は広く、狭い。

 自分の世界はとても狭く感じる。

 でも、狭い方が安心できる。自分の部屋以上にトイレの中が落ち着くのと一緒だ。

 縮こまって殻に篭り、周りをガチガチに固めてしまえば守りは完璧だ。

 それでも、時々外が気になる。そして知るのだ。外には美味しいものや美しいもの、楽しいものが山ほどあるのだと。

 だから、怖くても頑張って外に出てみる。そうすると、思っていたよりは大丈夫だと知ることができる。

 もちろん怖いことがなくなるわけではない。でも、怖いことだけではないと知ることができる。

 世界は、知らないことで溢れていて、自分の知っていることはそのほんの一部にしか過ぎないのだ。


 醜いものもある。光があれば闇が生まれるように。

 誰の中にも光と闇はある。人間には感情があるから、どちらもあって当然だ。

 だから、否定するのではなく、しっかりと向き合いたい。

 まずは受け止め、受け入れること。あるがままを感じてみること。

 痛みを伴うかもしれない。その痛みも含めて感じてみよう。

 そうすれば、何が痛いのか、なぜ痛いのかを知ることができる。

 自分が何に苦しんでいるのか。何に囚われているのか。本当はどうしたいのか。

 感じて、考える。

 浸るのではなく、考える。

 思考の先で、更に感じて、思考する。


 幼い頃に感じたもの。

 あるがままの、固定観念の無い素直な想い。

 自分にできること。

 自分のやりたいこと。

 自分の好きなこと。

 自分の得意なこと。

 光を感じる。

 笑顔、喜び、ワクワクドキドキ、やる気、努力、夢、希望。

 始まりは想いから。

 伝えたい。たくさんのことを知ったから。

 たくさんの人に出会い、たくさんの経験をしてきたから。

 喜びや楽しいことばかりでは無かったから。苦しいことも、悲しいことも、痛いこともたくさんあったから。

 だから、伝えたい。

 一人じゃないよ。自分だけじゃ無いんだよ。

 世界は広いんだ。たくさんの人がいて、見たことも聞いたこともない、まだまだ知らないことがたくさんある。

 誰も分かってくれない。なら、まずは自分が分かってあげよう。

 自分の中にあるものを、あるがままに。

 責めるのではなく、ぎゅっと抱きしめてあげよう。

 どれだけ時間がかかっても良い。

 立ち止まっても良い。

 生きよう。生きて、また歩き出そう。




 トンネルの先に、光が見えた。

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天倉炯 @amakurak

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