第14話 備えあれば千倍返し

 実は敵の戦力は大体把握していた。

 というのもこの星を飛び立つ前に、相手の戦力がどれほどのものか知っておいた方がよいだろうと思ったからだ。

『己を知り敵を知れば百戦危うからず』とショカツ=コーメイも言っている。

 あの饅頭はケチそうだが身辺警護には金をかけていそうな気がする。私設軍とか持っててもおかしくない。


 ただフンババたちはこの星以外の知識は乏しく、饅頭が用意している警備とかはあまり知らないようだ。

 そこで、3Dプリンターに歴史書でもないかと探していたら、この星の元住人らしきデーターがあった。

 古老の死はその土地の歴史書が一冊消えることだ。とは郷土史家の言葉である。

 今から120年前に登録された清掃作業員のデータらしいが、とりあえず復元してみた。

・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・


「ここは?私は復活したのか?」

 復元された清掃作業員は熊のように大きな体で周囲をまじまじと見ると

「会長は?ここは本社ビルではないようだが・・・」

 と言った。

 会長とは、あの腐れ潰れ饅頭の事だろう。あの男の下で働いていた人間だろうか?

 どうやら事情が飲み込めてないようだ。

 なので「YOU反逆しちゃいなYO!」と軽く事情を説明した。

「ほほう。あの何度殺しても飽き足らない詐欺野郎に喧嘩を売るのか。こりゃ痛快だ」

 とかなり乗り気で協力してくれた。

 彼はあの潰れ饅頭に騙された被害者なのだという。

 この星で3Dプリンターができたとき、人間は労働から解放されると思ったそうだ。食糧問題が解決され、地面を掘れば飯が食えるようになるからである。


 だが、そうなると他の人間をけ落として資源を独り占めしよう。と考える人間が多く出てきたらしい。

 今回復活させた清掃員のおっさんは現場の作業員から会社を興したたたき上げの人だったらしいが、取引先の会長だった腐れ潰れ饅頭から事業の拡大を勧められたという。

 働かなくても食っていけるのだが、贅沢な暮らしや豊かな生活をするのは難しいので、一発逆転をねらってかなりの初期投資をしたという。

 何でも作れても技術的な部分は、試行錯誤や積み重ねが必要だからだ。


 そして準備を整えて働こうとした矢先に、潰れ饅頭からを一方的に告げられたという。


 初期投資のために技術料を含めて資源を前借りしていた社長は手持ちの資源だけでは返済ができず、必要な時にだけこの世界に呼び出されて働かされるという不当な奴隷契約を結ばされたらしい。

 その後も残った住人たちで『生き延びるべき存在と不要な存在』という個人の主観にあふれた選別が行われ1000人位まで減り、惑星を5つくらい所持して攻撃を仕掛けてきた惑星の地表を焼き付くせるだけの兵器を開発した存在である157人だけがこの世界で常時生存することを許されているのだという。

 このレベルになると、騙すのも騙されるのも難しい位性根が腐った奴しか生き残っておらず、核の傘みたいな軍事的均衡が保たれているらしい。


「ここは警備料削減のため見張りは置かれていないが、勝手に宇宙に出ようとしたら最後、衛星軌道状に配備されている警備システム30機が置かれている。ある意味この星自体が監獄…絶海の孤島みたいなものなんだよ」

 なるほど。18世紀に失敗と判定された集中と選択をやっているのか。

「失敗?どこが失敗なんだ?」

「昔、ニッポンて国の大臣が貧乏で警備代を削減したんだよ」

 その名はタイロー=イイという倹約家だった。

 ナイフみたいに尖っては、刃向かうもの皆処刑したギザギザハートの独裁者だったが、あるとき王国の門の外で暗殺されたそうだ。

「大臣が暗殺されたのか?クレイジーだな。どうやったら要人が殺されるんだよ」

「簡単だよ。警備代をケチってバイトに任せたんだ」

 タイローは恨みを買い占めてアサシンから狙われているのはわかっていた。だが財政健全化に固執しすぎて財政破綻を起こしていたそうだ。

「本末転倒だな」

 ほかの国が適度にインフレを起こして金の価値が下がって自給50万ドルとか500万元となっているなか、唯一時給900円という超低額賃金で貧乏国に転落した失敗国家は伊達じゃない。

 24世紀に財務省という無能集団を集団処刑して金を刷りまくったが300年の遅れはまだまだ取り戻せていなかった。


 話がそれた。


 タイローは命がけの任務のバイトに日当6000円しか出さなかったので、敵がきたとたんバイト諸君は逃げ出した。

 当然だ。安月給で命なんてかけられるわけがない。

 かくして警備代をケチったため暗殺された要人として歴史に名を残した。

 アンセーノタイゴクとかいう言葉があたまにちらついているがよく思い出せないので大した事ではないのだろう。


 この逃亡者は後に逃亡したことを攻められたが

「こんな安いバイト代で命など賭けられるか!」と模範的労働者らしい名言を残した。


「つまり、警備力ってのは札束の殴りあいなんだよ」

 金を出せば命がけで戦う兵士も、正当な給料を払わなければ弱くなる。

 ならば、やることは一つである。


 ・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・

 衛星軌道状の警備システムは直ちに周囲の浮遊砲台などを集結させ迎撃体制をとる。

 大気圏に脱出させなければ資源は惑星上で循環するので、墜落しても問題はない。

 場合によっては反乱勢力の集落ごと爆発させるだけの砲弾を打ち込もうとした。しかし

『目標物!多数!目標物!多数!迎撃が間に合いません!!!』

 このシステムが配備されて200年。初めての事態に思考ルーチンは対処不可能となった。


 俺はの、ダミーを含めた宇宙船を増援として惑星から飛ばしたのだ。

「戦いは数だよ!兄貴ぃ!!!」

 地球の古典文学の名言をそらんじながら、予算をケチったみすぼらしい警備システムにレーザー報を叩き込む。

 

 無敵艦隊とかいう頭の悪そうな巨大戦艦に突撃をかけたイギリス海賊たちの戦い方にヒントを得た作戦は大成功。

 30の巨大戦艦は鉄クズと化した。


「よーし。破壊した警備システムは製鉄された貴重な資源だ。回収して大事に無駄遣いするぞ」

 鹵獲した船を材料に反逆に必要なトンでも兵器を作れて俺は上機嫌で言った。

「言っている事が矛盾していませんか?」

 兵器なんて大体が無駄じゃん?

  • Twitterで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

25世紀に事故死した俺は、異世界転生したかと思ったら30万年後の世界に復活していた件 黒井丸@旧穀潰 @kuroimaru

★で称える

この小説が面白かったら★をつけてください。おすすめレビューも書けます。

フォローしてこの作品の続きを読もう

この小説のおすすめレビューを見る

この小説のタグ