第13話 金を持たないなら金を出したいものを作るしかない

 3機ほどの宇宙船、いや宇宙戦艦といった規模のやつが来て無線でこういった。

「お前たちは、我が輩の財産を不当に奪っている。太陽系とか言う未開の土地でも所有権と言うのは知っているだろう。今すぐ帰せ」

 と至極まっとうな抗議を受けた。

 だが何の元手も無い高卒が働く場所もなく社会に放り出されたら、生きていく手段などない。おまけに困窮者を救済する政府もないなら略奪してでも生きるしか方法は無いのである。

「こんだけ、たくさん財産持ってて誰にもやらないとか言われたらよぉ!持たない俺は欲しくなるんだよ。上手いこと使ってやるからちょっと貸してくれ!」

 と頼んでみたが

「この星はワシのものだ。貴様等が餓死しようが死のうが、知ったことか」と婉曲キョート的に「死ねどす」と言われた。

「だったら取引をしないか?」

「取引?」

「ああ、お前さん達が集めているングリア像だっけか。それの超精巧なバージョンを作ってみたんだ」

 そう言うと、宇宙通信で7色に光る、0.0001mmのゆがみもない精巧な像を見せた。


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 俺はフンババたちに反乱を進めている間に、宇宙船で5人の俺と一台のプリンターを宇宙に飛ばし、そこで生産活動をさせていたのだ。

 それにより宇宙空間の一部に巨大な3Dプリンターが造られていた。


 その高さ100m。


 誤植ではない。宇宙では無重量状態となるため大きな装置でも簡単に作れるのだ。

 まあ多少の重力がないとプリント自体出来ないので遠心力で疑似的な重力を造る必要はあるが、方法の詳細は省略する。


 そして、その巨大なプリンターで80mクラスのングリア像を造ってみた。

 図体がでかいと細かい粗が結構見える。

 そこを修正させたところでプリンタにスキャンさせ、元の1mサイズで造らせたらかなり精度の高い像が出来るんじゃないかと思ったのだ。

 実験は成功した。フンババたちの目から見ても立派な像らしい。これなら小さな衛星位は買えるだろうと言われたが、高級品の価値はわからない。


 だが、


「はっはっは。いくらお前たちが像を造っても無意味なのだよ」


 とつぶれ饅頭が言った。はぁ?


「ン=グリア像は我々惑星主が規定の著作権料を支払い許可を貰うことで価値が認められるのだ。お前のような猿が造っても、パチモノだから何の価値もないのだよ」

 どうやら、この像の作成するには許可がいるらしい。天下り団体とか変な資格で新規参入を防ぐのはどの時代でも同じらしい。

 だが、像自体の価値が無いとは思えない。

そこで「そうか、じゃあこの像はいらないな」と言ったが

「それは、私の資源で造ったものだ。当然私に権利がある。勝手に壊すことは許さん」と言い出した。

 てめえ、それはタダで欲しいだけだろう。

 あまりにもあからさますぎる詭弁に俺は

「だったら技術料と手間賃位はくれよ。そしたらもっと良いもの造ってやるからさ」

 と譲歩を粘る。しかし、

「ああ、そこの大きな3Dプリンターも没収だ。お前は複製許可もとってない。それを考えれば、手間賃など払う必要がないのは当たり前だろう。少しは考えてものを言いたまえ」

 と一銭も対価を払う気がないことを宣言した。


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 金持ちが金を持っているのはケチだからだ。という言葉を思い出した。

 ついでに、新規参入者を金の力で蹴落とせるからだ。とも。

 

 つまり文なしの俺はどんなに頑張っても、この星のルールでは のし上がる事は不可能らしい。


 


 俺を守りもしない世界に従う義理なんて一ミクロンもない。

 クソみたいなルールなんてぶっ飛ばすに限る。

 そして、そのクソみたいなルールしか、この星にはない。

 なら、やることは一つである。


 指を鳴らすと直径10mの作業用機械が飛び出す。

 サイズAと呼ばれた2本のアームを持つ宇宙用の大型機械だ。

 土星の採掘者時代に欲しくて欲しくてたまらなかった高級作業機である。

 カタログを舐めるように見ていたので、その構造やスペックは頭にコンプリート。

 想像だけで政策できたのである。


 小型の宇宙船など分解するのに ひとたまりもない高性能ロボットだ。

 こんな機械を動かすには優秀な操縦者が何人か必要なのだが、それは3Dプリンターでいくらでも複製できる。


 そう、俺だ。


 そんな事を考えていると、目の前で強烈な光が見えた。


 あ、やべ。

 これ分解光線じゃんか。


 一度 分身体が浴びた殺人光線。再びそれを食らってオレは消滅した。


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「うわー。容赦ねえな。あいつら」

 分子レベルで物質を分解する光線で消えた俺を遠くの衛生から見る俺。


 こんな事もあろうかと、俺は宇宙に出てから3Dプリンターと俺を次々に複製し、一部は余所の星へと出発させていた。

 そのスピード、一分間に俺とプリンターが倍々ゲームで増えている。

 今は多分4万人位じゃないだろうか?


 例え、ここで数百人の俺が消されても1分ごとに倍増する俺たちを止めることは、庭に生えてきたハーブ系雑草を駆除する以上に不可能なのである。


 今頃100万km先の隕石にのって千人単位でクローンが作られている。ねずみ算も真っ青のスピードだ。

 どうやら奴らも周囲の生命反応から気がついたらしく

「やめろ!おまえたちはバクテリアか!」

 と言われた。


 待てと言われて待つ奴はいない。


 弱い生き物はすぐ死ぬから、たくさん増える。

 マンボウは3億の卵を生むそうだし、蠅の一種も億単位の卵を生む。だから滅びなかった。

 なので、財産的に弱い俺は宇宙でたくさんスペアを作るしかないのだ。

 富裕層様の財産を横領して。


 いやあ。他人の金で作る俺は楽しいなぁ。

 そんな事を考えながら、俺と俺の分身たちは四方八方から富裕層様の宇宙船めがけて突撃を指示した。

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