第2話再会

 それから三日が経ち、私はいつものように喫煙所でタバコを吸っていました。何気なしに、スマホから顔をあげると、ちょうど彼が喫煙所に入ってきているところです。


 私は目が合い軽く会釈をすると、彼も軽く会釈をして私の隣の椅子に座りました。「最近暖かいですよね」彼がタバコを口に銜えながら話し掛けてきます。


「そうですね。春の風が気持ちいいです」


 私は久しぶりに会った彼との高揚感と、スムーズな会話の入りに戸惑い硬くなりながら返事をします。


「気持ちいいですよね。だいぶ桜も咲いてきましたし」


 私は、彼の口から桜という単語が出て来る事に少し驚きます。私は彼のようなイケメンからは、木や花といった美しい言葉は出てこないものだと思い込んでいました。


「どうかされましたか?」


 彼が不思議そうに私の顔を覗き込んできます。私は、慌てて「い、いえなんでもないです。桜、奇麗ですよね」と返事をしました。


 彼は少し苦笑いをしながら「自分が桜っていうのは少し不自然ですか?」とぽろっと投げかけます。


 私は心の中を見透かされ、ぎくっとしながら「そんなことないですよ。ただ、少し意外だっただけです」と弁明しましたが、全く弁明になりません。


「そうですか」彼は笑いを抑えながらタバコを吸いました。ふいに彼が呟きます。


「桜、似合いそうですね」


「え?私がですか?」


 彼が意外なことをいうものですから、私はパリパリと驚いた顔をしてしまいました。


「似合うと思いますよ。みゆきさん綺麗な顔立ちしてらっしゃるので」


 彼が当たり前のように言うので、私はぽぅと顔が赤くなっていくのが手に取るように分かります。


「そ、そんなことないですよ。そんな、はじめて言われました」


 私は顔を隠すようにこくっと下を向くと、持っているタバコに白い灰が溜まっていました。私はちょんちょんと親指で灰を落とします。


「意外ですね。たくさん言われてきたのかと…」


「そんなことないんです。私みたいなのが言われるわけないじゃないですか。冗談がお上手なんですね」


 私は皮肉を込めて、言葉を吐き捨てました。しかし、彼をちらっと見ると何とも言えない表情をしています。


「冗談なんかじゃありませんよ。本当にそう思ったんです」


 あまりにも真剣な顔で言うものですから「はぁ…」と思わずあっけにとられた表情で、彼を見つめてしまいました。


「あ、信じてないですね?それなら今度桜の綺麗な川沿いに行きましょうよ。自分が写真を撮るのでそれを見て判断してください」


 彼が自信満々に言うので思わず「わかりました…」と口に出てしまいます。


「それじゃあ空いてる日連絡したいので、連絡先教えてもらえますか?」


「あ、はい…」


 私は慌ててスマホを取り出し、連絡先のQRコードを彼に向けました。彼はスマホを重ね合わせ瞬時にQRを読み取ります。


「出来ました。その『東 たくみ』っていうのが自分です」


「はい。私は『佐原 みゆき』です」


「わかりました。また後で連絡しますね」


 彼は灰皿にタバコを押し当てて消し、時計を確認します。


「じゃあ私はこれで」


 彼は足早にオフィスに戻っていきました。彼の姿が途切れ今交換してもらった連絡先を確認します。

 

 こんなにドキドキした連絡先交換は初めてだと気付き、また顔がぽぅとなります。


 私は私はぱっと時計を確認して、お昼休みの終わりが迫っていることを自覚してました。私は急いでオフィスに戻ります。

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15円の恋心 @kosyoz

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