新たな旅立ち
「トール殿! 実にありがたい! 君たちのおかげで我が王国アレクサンドリアの危機は過ぎ去ったよ!」
「ええ……本当ですわ。トール様。皆様。あなた達は我が王国の危機を救ってくれた英雄です」
魔王軍四天王ルシファーの危機が過ぎさり、俺達は国王とフィオナ王女に健闘を称えられた。
「……トール殿、皆の者。少しばかりの報奨金だ。そしてラカム殿のパーティーには今回の活躍に免じ、以前徴収した懲罰金を返そうではないか」
「そ、そんな……別にいいですよ。あの活躍は俺たちの力じゃないんです。トールから借り受けたものなんです」
ラカムは遠慮した。
「いいからラカム、好意は素直に受けて取っておきなさい」
エミリアに諫められる。
「これからの人生、何かとお金は必要でしょ」
「そうよ、ラカム。貰っときなさいよ。しばらくそのお金で私は遊んで暮らしたいわよ!」
「俺もそう思う。俺の本来の職業は農民だ。資金があれば大きな畑を買うこともできる! そう、大地主にだってなれるかもしれない!」
「僕だって働かないでしばらく生活できます! 僕はもうしばらく働きたくないんですよ! ぐーたらと過ごしたいんです!」
チート職業が返却されたラカム達。ラカム達は元々の外れ職業になっていた。
「ふむ……皆のものもそう言っているのだ。大人しく受け取っておくがよい」
「ありがとうございます。国王陛下」
ラカム達は結局、報奨金を受け取った。
「それでは改めまして、この国の危機を救ってくださった英雄たちに拍手を送ってください」
フィオナ姫はそう言って拍手を始めた。俺達の周りには兵士及び使用人たちが何人もいたのである。
パチパチパチパチパチパチパチパチパチ!
盛大な拍手が鳴り響いた。こうして王国を救った俺達に対しての褒賞式が終わったのである。
◇
それからのことだった。俺達はラカム達と面会することになる。
「ありがとうな……トール。お前がいたから、王国アレクサンドリアを救うことができた」
ラカムは俺にそう言ってくる。身の程を知ったラカムはもはやかつてのラカムではない。誰だってそうだ。挫折を知り、そして身の程を知り、成長していくものなのである。
「気にするな……お前達がいなければ王国を救うことはできなかった。俺だって感謝しているんだ」
「俺達、勇者パーティーの最後の晴れ舞台だったからな。有終の美を飾れて本当によかった」
「これからどうするんだ?」
「身の丈にあった生活をするよ。俺達は。俺は村で村人をやる。それで、トール、お前が世界の平和を救う日を待つよ。一人の村人としてな」
「俺が……世界を」
「ああ。それが俺達の望みだ。もう、世界の危機を救えるのはきっと、トールだけなんだ。勇者なのは俺じゃなかった。トール、お前だったんだよ」
「お、俺が勇者……そんなことをお前に言われるなんてな」
「トール、お前が、お前こそが本当の勇者だったんだよ。真の勇者だ。俺のようなまがい物の勇者じゃない。だからどうか、俺達の代わりに世界を救ってくれ。魔王の脅威から世界を救えるのはお前だけだ」
「私からも頼むわよ、トール」
メアリーがそう頼んでくる。
「俺からも頼む! 魔王を倒して帰ってきたら、俺が育てた野菜を沢山食べさせてやるから!」
ルードが俺に頼んでくる。
「僕からも頼みます、トール。僕たちの代わりに世界を救ってください! 世界を魔王の危機から、どうか頼みます!」
グランもそう俺達に頼んでくる。
「皆……」
「トール」「トールさん」
エミリアとセフィリスが声をかけてくる。
「ここまで来て、ラカム達の気持ちを蔑ろになんてしないわよね?」
「私も思うんです。この世界の危機を救えるのはトールさんだけだって……・」
「エミリア、セフィリス……。わかってる。ラカム達の意志は俺が受け継ぐ」
もう最初のようには戻れない。ラカム達と勇者パーティーとして行動を共にするのは。俺にはもうエミリアがいる。そしてセフィリスがいる。
この三人で旅をすることを決めているのだ。だから元には戻れない。だが、ラカム達の意志を受け継ぐことはできた。
「魔王は必ず俺が倒す……ジョブ・レンダーである俺が必ず。世界を魔の手から救って見せる」
魔王軍四天王のルシファーは倒したが、それでもまだ世界の脅威は残っている。四天王はほかにも三人いる。そして力を封じられている魔王。
魔石を今回は何とか守ることはできたが、魔王の力が今後も目覚めない保証はなかった。
「ああ……これで安心して村に戻れるよ、俺達は」
「ああ。安心して帰ってくれ。じゃあな、ラカム、メアリー、ルード、グラン」
「それじゃあね」
「それでは失礼します」
俺達はラカム達と別れた。こうして俺達はラカム達の意志を引き継ぎ、世界を魔王の脅威から救う、旅を続けることにした。
俺のジョブ・レンダーとしての旅はまだ始まったばかりである。エミリアとセフィリスという仲間を引き連れ、これからも旅は続いていく。
【完】
「君、勇者じゃなくて村人だよ」職業貸与者《ジョブ・レンダー》~パワハラ勇者達に追放されたので、貸してたジョブはすべて返してもらいます。本当は外れ職業と気づいて貸してくださいと泣きつかれても、もう遅い! つくも/九十九弐式 @gekigannga2
★で称える
この小説が面白かったら★をつけてください。おすすめレビューも書けます。
カクヨムを、もっと楽しもう
カクヨムにユーザー登録すると、この小説を他の読者へ★やレビューでおすすめできます。気になる小説や作者の更新チェックに便利なフォロー機能もお試しください。
新規ユーザー登録(無料)簡単に登録できます
この小説のタグ
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます