使命があろうとなかろうと。
多賀 夢(元・みきてぃ)
使命があろうとなかろうと。
作家になりたいと思った瞬間から、私の人生に無駄が消えた。
『普通である』という事が、最も無価値な存在になった。
そもそも私の周りには、親が望むような『普通の人間』がいない。
霊感持ちには相当出会った。虐待されて育った人、多重人格者、エロ専門ルポライター、起業家、着ぐるみ美少女、世界的に有名な技術者、死病から生還した猛者、その他色々。
彼らとの遭遇も、語る言葉も、日常も、周囲の目も、それに反応する感情も、すべてが小説の材料である。私は彼らの中に、私が思う『普通』を探しながら、何が彼らを特異たらしめるかを分析する。同じ目線で対話して、その人生を想像でトレースして、自分の思いと合致した時に文章にする。そうやって、もう10年以上私は書くという行為を繰り返している。
だからだろう。私はある『観える』女性から届いたSNSのメッセージに苦笑した。
「私には使命が見えるんです、あなたの使命はメッセンジャーなんです!言葉の力で人を導くのが使命なんです!」
ほい、変わった人釣れた~とか思ったのは内緒だ。
私にはちゃんとわかっている、彼女の目には本当に『観えて』いるのだ。そういう人は過去に何人もいた。
ただ、思ったのはね。
『使命って、そんなに嬉しい事か?』
この一点。
大いなる意志だとか神だとか、そういうものがいて私を指名していると言いたいのだろうが、だからなんやねん。神様は信じちゃいるが、だからって私である必要がどこにあんの。
私は、誰が何をしようとしまいと、世の中は回ると思っている。
スティーブ・ジョブスがいなくたって、誰かがappleのような会社を作り、iPhoneを作っていただろう。エジソンがいなくても電球は出来ただろうし、ベルがいなくても電話は生まれた。ニュートンがいなくても重力は見つかったはずだ。
偉人は確かに偉人だ。だけども、彼らは選ばれた天才ではない。彼らが何かを思いつくだけの材料は、その時代すでに揃っていたのだ。ただ、最初に気づいたのが彼らってだけ。
それに使命じゃなんじゃと定義されなくても、私には伝えたいテーマがあるし、変えたい世の中がある。
『努力』という言葉に対するマイナスイメージを消したい、受け身に生きたがる日本人の意識を変えたい、自分で自分を幸せにする事を肯定して欲しい、精神障害への劣等感や偏見を消したい、毒親を撲滅したい、平等と対等を知り自分の真の価値を認めて欲しい。
何よりも『LOVE』を広めたい。愛でも恋でも性欲でもなく、見返りを求めず注ぐLOVEの感覚を広めたい。多様性を認める世界では、最も重要な感覚だと思うから。
だけどこれらは、野心ある小説家なら一つはテーマにしている事ばかりだ。
つまり私が書かなくてもね、私の書きたいテーマは絶対に誰かが書くの。私じゃなくてもいいの。
それを理解したうえで、私はパソコンのキーボードを叩いてんの。子供が蝶やトンボを追いかける感覚で、ワクワクしながらひたすら綴っているだけなのよ。
私にしかできないことなんて、この世には一つもない。
それでもやる、それでも書く。――それが物書きってもんでしょ。
使命があろうとなかろうと。 多賀 夢(元・みきてぃ) @Nico_kusunoki
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