第5話 僕の知らないひと

アルテネ学園 中庭




色とりどりの花びらが目の前に現れた金髪の少女の髪を揺らす


な、なんでこんなことになったんだ。ていうか僕30分も寝てないくらいの時間でまだ意識は薄くあったはずなのにどうして気づかなかったんだ!?

そんな風に驚いたまま顔を固まらせ頭で悶々と考える。そして少しの静寂が訪れ、彼女が口を開く。


「やっとまた会えたというのに嬉しいの一言も無いなんて寂しいわね。まぁエクトなら仕方のないことだけれど。」


見覚えの無い顔に、もしや?と疑問が浮かぶ


「もしかしてなんだけど、違う人と間違えてる?

僕の名前はエクト・ニスイン。違うエクトなんじゃないかな?」


「そんな筈ないじゃない顔も声も瓜二つよ。大体私がそんな致命的な間違いするはずも無いじゃない。」


「で、でも僕は何にも君のこと知らないし見たことも無い。今こう初めて出会ったばかりなんだ。それでも君の探していた人と僕が同じだなんて理解が追いつかないよ…。」


少しの間沈黙が流れる


「確かに。貴方からは顔や声が同じでも私の知っているエクトの面影はしないわ。そんな事さっきから感じていた事だけど、きっと私をからかっているだけだと思ってたの。だけど…そうでも無さそうね。」


そう、変幻魔法の可能性もあったけど時間が経っている今その可能性は無くなっている。だけど何故かしら、この違和感。エクトと瓜二つの双子が実は居てなんて事はない筈。だって私のエクトセンサーが発動したのは紛れもなく彼。私が知っている情報をエクトは知らない。私が魔法の力によって他人を思い続けていた?いやこれはもしかして……。


「エクト、貴方もしかして記憶を無くしているの?」


「へ?」


「そう、そうよ!冷静に考えてみてAさんがBさんを昔からよく知っている人物だという。でもBさんはAさんのことを知らないと言っている。つまりこれは魔法による事象とみなしていいわ。」


「そして現代の魔法技術を踏まえあり得る可能性はAさんの記憶はBさんという架空人物を見続けているという魔法をかけられている場合。だけどこれは私に長い年月魔法をかけ続けるとても難しい魔法だし現代の魔法技術の範疇はんちゅうとはいったけど、常に精神をすり減らしながら魔法をかけ続けるということを成し遂げられる人は居ないわね。自分の心が壊れるから。」


「それにそんなの事をする価値なんて私にはないもの。」


「ちなみにAさんが私、Bさんがエクトね。」


「そしてもう一つの可能性はBさんの記憶が一方的に書き換えられてしまった場合。これは特定のしかも具体的に過去の記憶を変えられるから実現可能。これには確証があるわ、AさんがBさんのことを知っているだけなら他の可能性があるのかもしれなかったけど、第三者Cさん、言わば私の知人もエクトという存在を知っているからBさんになんらかの魔法がかけられた。この説が濃厚ね。」


しまった。ここまで私の癖でつい先行して最後まで喋ってしまったわ。愛しのエクト、いや彼は記憶喪失で間違い無いわね。なんでこんな事に…でも彼の実力や才能なら十分何かの価値があったのでしょうね。


「ねぇ。貴方はどうして記憶喪失になってしまったの?」


いきなり話された現実を帯びない不思議な話に驚いた。

と思っているけど意外に心は冷静だった。何故なら記憶喪失という単語に心当たりがあるから。

そう僕は昔の事の記憶が曖昧だったから、自然と納得していた。


「僕は君の言っていた通り昔の記憶が思い出せない。でもどうしてこうなってしまったのかも全然分からないよ。」


可哀想なエクト、早く取り戻さなきゃ本当のあなたを


「私はさっき貴方の前で愛していると言ったわよね?だけど前言撤回。私が好きなのは記憶喪失前のエクトであって貴方では無いわ。だから私もエクトを取り戻すため協力する。」


「本人の意思がどうであれ、私は勝手に貴方を振り回すだろうけど了承して欲しい。任務を遂行するためにはどんな手段も使うつもりよ。」


「でもね、ええっとー」


「私の名前はシテア・プラーク。」


「シテアさん、シテアってどっかで聞いたことがある気がするんだけど、どこだっけなぁー。」


「多分入学式ね私は新入生主席だったから代表の言葉で聞いたのでしょう、というかシテアでいいわよ。」


「わかった!シテア」


言おうと思った会話が流れてしまったでもまだ僕の気持ちも曖昧だし気持ちが固まったら言おう


「シテア、記憶を取り戻すって言っていたけど具体的にはどうやってやるの?」


何度も同じ声で自分の名前を呼ばれると顔が緩んでしまうそして甘えたくなってしまう…。でもこの想いを原動力に変えていくしか無いわ。エクトの記憶が戻るまでの辛抱頑張るのよシテア。


「とりあえずこれからの事だけれど、記憶を取り戻すには記憶を失くす前によくやっていた事をやってみるという方法が一番手っ取り早いわね。」


「というと?」


「私の任務に同行してもらうわ。」



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記憶喪失な殺人鬼は人を救う 派手なたんぽぽ @Hadena_Tannpopo

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