第3話 魔王と天使、初めての誕生日を迎える

赤ん坊として転生してから早1ヶ月。

つまり生後1ヶ月に成長した俺たちは、幸いなことに言葉は分かるので、自分たちの状況把握に努めていた。


神の言っていた通り、俺たちの生まれた家は経済的に安定している一般家庭のようだった。

家は魔王城に比べると比較にならないほど小さいが、家電というものが設備された驚くほどに快適な一軒家だ。

まあ魔王城なんて俺が使っていた部屋はほんの一部だったのだから、使用人もいないしこのくらいの大きさがちょうどいい。


家族構成は父親が一人、母親が一人、兄が一人で俺たちを含め計五人家族。

妻を一人しか娶らないとはなんと誠実な父親なのだろうかと関心したものだが、この世界は一夫一妻らしい。俺の感動を返してくれ。


そして後で判明した俺の今世の名前は高藤久苑。

変わった名前だが、まあ世界が違うのでつけられる名前も違うのだろう。

ちなみに双子のサポート天使は高藤志苑。

なんか名前が似ていて不本意だが、双子ということで近い名前にしたのだろう。

父親は高藤正隆で、母親は香織、兄は奏多。

なにげに父親の名前が格好いい。


両親の年齢は知らないが、兄は5歳になり再来年には小学校とやらに行く年齢らしい。


そうして一年は、体もろくに動かせないので情報収集以外することもなく暇な時間が続き、仕方ないことだと分かってはいるがおしめ変えなど辱しめを受けること以外は平和な時間を過ごしていた。

赤ん坊というのはとても不便だということを身をもって学んだ時期だった。


一年後、舌ったらずではあるものの徐々に言葉を発するようになっていった俺たちは一歳の誕生日を迎えた。

この世界では一年ごとに誕生日は祝うものらしい。

前の世界ではどうかは知らないが、魔王城では誕生日を祝うことはなかったし、そのうち正確な年齢も忘れてしまった。

なので誕生会というものはとても新鮮だった。


「「「お誕生日おめでとう!」」」


「あいあとー!ぱぱ、まま、にいに!」


「あいあと。」


言葉を発するようになって志苑は猫を被って愛嬌をふりまくようになった。

女って恐ろしい。中身を知ってる俺はいつか消されるんじゃないだろうな。

そんな俺の視線をまるっと無視している志苑はどこと吹く風だった。


「本当にうちの子は賢いね。まだ一歳児なのにお礼も言えるなんて。」


「本当ねえ。こんなに早く言葉をペラペラ喋る一歳児はなかなかいないんじゃないかしら。」


両親はにこにこと嬉しそうに俺たちを褒めまくる。

普通の子供がどれくらいで話すかなど俺には分からないことだが、俺たちには前世の記憶があるのだから他の子より早いのだろうということは想像できる。


幸いなことにうちの両親は子供に愛情をもって育てていて、もちろん悪いことはきちんと叱る立派な親だ。

その証拠に純粋に二人の子供である兄はとても素直な優しい子供に成長し、幼いながらも俺たち弟妹の面倒も見てくれる。

どこかの猫かぶりとは違うのだ。


「なんかしつれいなこといわれたきがする。」


「きのせいだ。」


俺たち双子の仲も、まあ悪くはない。

たまにこいつサポートの仕事忘れてるんじゃないかと思うこともいるが、まあ聞けば色々教えてくれるので多目にみている。


「今日は二人の誕生日だからプレゼントだよ!」


そうして両親から差し出されたのは包装された二つの包み。

おそらく目の前にあるこの青い方のプレゼントが俺のなのだろう。

お礼を言って受け取ったが一歳児では開けるのが大変なので父に手伝ってもらう。


包装紙を破って出てきた箱を開けると一セットの服が入っていた。


「お出かけ用の服よ。パパと選んで買ったの。気に入ってくれたかな?」


なるほど。たしかに今まで着ていた服はどれもふわふわして着心地がいいものではあったが、寝間着のようなものばかりで外出する用ではなかったな。

恥ずかしかったが赤ん坊だからその服装も仕方ないと思っていたのだが、きちんとした服をもらえるのは素直に嬉しい。


「あいあとー!しおんうれしい!」


「あいあと。」


外出用の服をもらえたということは遠出でもするのだろうか?

そんなことを考えながら服を見ているとせっかくだからと着替えることになってしまった。

少し面倒だが楽しそうにしている父と母の好意を無駄にするのは忍びない。


手伝ってもらいながら、というかほとんど着せてもらい着替えると、これまたとても着心地のいい服だった。とても一般家庭のものとは思えん。

志苑とお揃いのものでないというのもポイントが高い。

転生したとはいえ精神年齢600歳越えで可愛いペアルックとかなんの拷問だと思う。

今さらだし両親に悪気はないことは分かっているのでお揃いのものに文句は言わないが、できれば遠慮したいところだった。


「本当にうちの子たちはみんな可愛いなあ。」


「本当ねえ。こんなに可愛い子はなかなかいないんじゃないかしら?」


着替えた俺たちを見て両親は嬉しそうにニヤニヤしていた。

俺の可愛さにメロメロな両親は放っておいて、少し暇なので兄と遊んでやることにした。

最近の俺のブームは兄で遊ぶことだ。


兄は俺のおもちゃであるガラガラを手に俺の目の前で音をならし始めた。


「ほら、くおん。くおんの好きなガラガラだよー。」


にこにこと笑顔で楽しそうに話しかけてくる。


ふっ。甘いな兄よ。

そんなものではこの俺に敵うはずもなかろう。

俺は興味を失ったようにガラガラから視線を外し


スバッ!


目にも留まらぬ速さでガラガラを兄の手から奪い取りどや顔で目の前でならしてやった。


悪いな、これは俺のなんだ。欲しければ俺の速さについていけるように鍛えることだ兄よ。


「・・・なにちてんの?」


「ごうだつごっこ。」


「せめてたのしそうななまえにしよう?!」


なにをいう。これ以上なくこの遊びをうまく表現したネーミングは他にあるまい。


「そしてにいにがなにげにたのしそうなのがなっとくいかない。」


「おれのてにかかればちょろいものだ。」


俺は完全無敵の魔王だからな。

幼い子供を喜ばせることなど容易い。


「やっぱりうちの子は凄いね。」


「そうねえ。くーくんの動きは残像が見えるものね。こんな一歳児はなかなかいないんじゃないかしら?」


うちの両親は今日も平和だった。


「いっさいじどころかおとなでもむりだとおもいます。」


志苑はなにかぶつぶつ言うと俺を肘で小突いてきたがどうかしたのだろうか?


ああ、そうか。分かったぞ。


「・・・おもちゃはやらんぞ。」


「ちがうわ!じちょーしろっていってんの!」


「ふっ、わるいな。おれにじちょーするというせんたくしは、ない。」


魔王時代暇な時間を費やし長年研究したどり着いた、かっこよく見える角度を計算しつつ振り替えると渾身の決めポーズを決める。


・・・ふ、決まった。


「そのかお、はらたつからやめてくれません?」


相も変わらず志苑は今日も冷たいのだった。

  • Twitterで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

うちの魔王様! 北ノ双月 @korokoro-omuraisu

★で称える

この小説が面白かったら★をつけてください。おすすめレビューも書けます。

フォローしてこの作品の続きを読もう

この小説のおすすめレビューを見る

この小説のタグ