また、会う日まで

ユウイチ

第1話

 今日も学校がある。俺はいつも普通の生徒より早めの登校時間に家を出る。しばらく歩くと見える神社の階段の下の鳥居の下で優花が待っていた。


「おはよ! 今日もいい天気だね」

「おはよ。確かにいい天気だね」


 今日も先に来て待っていてくれていた。付き合い始めて二年目だが、俺が先に来れたことはない。


「じゃあ、行こっか」


 今日も元気に地球を照らす太陽なんかより眩しい笑顔で俺の手を握る優花。その暖かく小さな手を俺から握ったことはない。でも、こんな時間がずっと続けばいいのにって思う。


「ねぇ、今日の予習やってる?」

「ん? まぁ、やってるけど……どうかしたか?」

「いや、ちょっとわかんないところが……」

「後でな」

「うん!」


 その後も他愛のない会話をしながら雲ひとつない晴天の下歩いて学校に向かう。


 しばらくしたら校門が見えた。そこを通り、下駄箱に行く。下駄箱で上履きをとり、教室に上がる。俺達、三年生は三階だ。


「それでね、ここなんだけど……」

「そこはな……」


 優花が目の前の席を借りて座り、肩にかかるくらいの髪を後ろでまとめる。そんな仕草を俺は直視することが出来なかった。


 いや、だって胸を強調されてるみたいだし、直視したらいろいろアウトでしょ。


「ん? ん〜?」

「どうしたんだ?」

「どうしてこっち見ないの?」


 両手を頭の後ろにまわしたままの状態で話しかけてくる。


 は、や、く、む、す、べ!


 少しして結び終えた優花はなにかに気がついたように、そして、少し顔を赤らめながらニヤッとした。


「あ〜……そんなに胸が気になるの? そっか〜……ムッツリだったんだねぇ……言ってくれたら触らして……あげる……よ……?」


 喋るにつれて赤さが強くなり、反対に言葉は弱くなっていく。


 か、可愛い……


「恥ずかしいなら最初から言うなよ……あと俺はムッツリではない。後、そんなこと言ってたらお前の方が変態だと思われるぞ?」


 俺は優花の頭を撫でながら言った。絹糸みたいな手触り。手入れを怠ってないことが手のひらから伝わる。


「ち、違うもん! 変態じゃないもん!」

「そうかそうか。大丈夫だぞぉ」

「もぉ! そういえば、検査どうだったん?」

「あぁ……別に変化はないらしい。よくも悪くもそのままだってさ」

「そっか……早く治るといいね、心臓」

「そうだな」


 俺は生まれつき心臓が弱い。カクチョーガタシンキンショウってやつが最近発症したらしい。幸い、早期に気づけたので薬だけですんでいる。激しい運動さえしなければ普通の生活ができる。今のところは。


「お、ま〜たイチャイチャしてやんの〜」


 クラスメイトが来た。しんみりした空気はここで終わりだ。優花に目線で合図、コクッと頷いた。こういうところまで可愛い。


 そこからはいつも通りののんびりとした無駄な時間を過ごした。


〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜


 あれから時が経ち、年越しが近くなってきた今日、俺は余命宣告をされた。卒業出来ない可能性の方が高いと。ついこの前までは順調に治っていると言われたのに……


「なんでだよ!!」


 ゴンッ!!


 電柱を殴った音が虚しく辺りに響く。殴った手からあかい液体が流れ出る。全く気にならないが。


「なんでなんだよぉ……」


 よろよろと歩いていたら学校に行く時の優花との待ち合わせ場所に来ていた。そのまま何気なく階段を登っていく。空では満月が夜の闇を連れて夕日を追いやっていた。


 今は使う人なんて誰もいないような古くボロい神社。そこにはこの二年の始まりがあった。


◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇


1話、読んでいただきありがとうございますっ

あと、5話続きます!! どうか最後までお付き合いください!

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