魔法が存在する世界における、ある社会問題

@HasumiChouji

魔法が存在する世界における、ある社会問題

 私が若い頃……まだ、魔法の存在が疑いの目で見られていた時代……ある冗談を聞いた事が有った……。

 それは……。


「あの……マンドラゴラが万病に効くと言っても……その……」

 その男は、私が……かつては平均より上の「魔法使い」だったが、ここ十年ほどは「魔法」業界の最新の流行や技術に乗り遅れ、仕事が無くなりかけていると知って、ある仕事を持ち掛けてきた。

「でも……様々な病気が治る事は治るんでしょう?」

「ですが……その……」

 無理だ。

 たしかに魔法植物の「マンドラゴラ」には、「魔法」の理屈では説明可能だが、従来科学・従来医学では説明出来ない薬効は存在する。

 それは……従来医学からするとまるで奇跡のような無茶苦茶なモノだが……「万病に効く」と言える程のモノかは議論の余地が有る。

 最も理想に近い環境で育てられた「マンドラゴラ」の薬効にも限界は有る。

 ましてや、この男が商品化しようとしている「マンドラゴラ」は……三流品だ。

 どこから仕入れたのかさえ不明なので……「マンドラゴラ」の中でも駄目なモノなのははっきりしているが、どれ位、駄目なのかは分析してみないと判らない。そもそも、品質のばらつきが、かなり大きいので平均値さえ意味は無いだろう。

「先生が、この『マンドラゴラ茶』の宣伝に御協力していただければ、月にこの程度の顧問料を……」

 提示された金額は、悪くないモノだった。

「ですが、その……販売ルートなんかは……」

「私の人脈を使います」

「人脈? えっと問屋に卸すとかネット通販じゃなくて?」

「今時、ネットで買えないモノの方が付加価値が出ますよ。まず、私が何人かの知人に『マンドラゴラ茶』を卸して、その何人かが更に会員を……」

「えっと……まさか……それって……」

「ええ、俗に言う『マルチ商法』ですが、何か?」

「えっと……それ……マズくないですか?」

「大丈夫です。これが破綻したら、別の人脈を使って『人参果エキス』の販売を予定してますので、はい」

 マズい……。この話からは手を引くべきだ……。しかし、零落れつつある私には……ほんの数ヶ月だとしても、あの「顧問料」の金額は魅力的だった……。


 私が若い頃……まだ、魔法の存在が疑いの目で見られていた時代……ある冗談を聞いた事が有った……。

「本屋に行って、どう見てもインチキな健康本を何冊か立ち読みしてみろ。著者の何割かは医学博士だ。中には一流大学の名誉教授まで居る」

 オチは、その冗談が言われた文脈によって「なので医者ってのは信用出来ない」と「だからと言って全ての医者が信用出来ない訳じゃない」の2通りが有ったと思う。

 魔法の実在とその効力が証明されて数十年。

 「魔法使い」資格は医師免許のような「権威」となったが……その知識・能力は、医者と同じくピンからキリまでだ。

 そして……最新の「魔法」にはついていけなくなった時代遅れの「魔法使い」でも……金を稼ぎ、食っていく必要が有る。

 魔法で贋金を作れたとしても違法だし、食料を生み出す魔法は存在するが……スーパーやコンビニで普通の食べ物を買った方が安くつくほどのコストがかかるのだから。

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

魔法が存在する世界における、ある社会問題 @HasumiChouji

★で称える

この小説が面白かったら★をつけてください。おすすめレビューも書けます。

カクヨムを、もっと楽しもう

この小説のおすすめレビューを見る