十一

同級の彼と別れて一年ほどの暑い夏の日だった。


新しく知り合った長髪の彼は私を家に誘った。

駅で待ち合わせて目が合った瞬間、私は自然と笑みが溢れた。


彼は見たことがない唯一無二の美しさを持っていたからである。控えめな目と彫刻のように高い鼻筋と薄い唇をもち、まず私の肩を叩いた。


「こんにちは」


彼は海外渡航経験がある所以の距離感の近さがあった。

私は暑さに負けて、ノースリーブから腕をのぞかせ、彼は半袖を着て彼のフランクさを思わせる格好をしていた。


加えて、彼は長髪だった。パーマをかけるでもなく、サラサラと流れるその髪が、ショートカットの私にはない、エキゾチックで魅惑的な彼らしさを演出していたのだ。


お酒を交わしながらたくさん話をした。

「何をしてるの」

「大学はどこなの」

「アルバイトは」


「飲兵衛だな」

と笑いながらお酒を買い足しに行き、シャワーを浴びる。


帰る予定だったのに。私は彼に惹かれ始めていた。彼のそのフランクな姿勢なのか。

彼の柔らかい雰囲気か。気兼ねない言い口なのか。


水を浴びながら考える。私はどこに寝ればいいのだろうか。


そうして部屋に戻ると彼は寝っ転がっていた。


「一緒に寝てもいい?」


事実彼の部屋の床で寝るのはなんだか気が引けた。それはただのいいわけで、彫刻のように美しく、骨太のあの体に触れたかったのか。


布団に入ると、彼は一気に私を抱き寄せた。


私はここで初めて、逞しい腕に抱かれる頼もしさを知った。抱き寄せる力とは裏腹に彼の手は優しかった。それを思うと、私以外の誰かを抱いていることは想定がつくのだが、その時はそんなことは一切どうでも良かった。彼の中に身を委ね、唇を幾度となく交わした。


彼は私の背を繰り返しなぞり、耳に口づけ、

私が持てうる女の力をいとも簡単に引き出した。


その悦びに私はにわかに声をあげ、私の中に彼が入る。

私がしがみつくその背中は言いようもなく広く、硬く、微動だにもせず、私を果てさせた。


彼の熱い視線を感じ、微笑んだ。


それ以降私たちは度々逢瀬をすることとなった。

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痴呆 @shime3ba

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