読んでいて心が震えました。
魔法王国の水族館という極めて特殊な環境下で育まれる、クジラと少年の美しき絆の物語。
尋常でない発想のスケールとそれを活かす作者さまの高い筆致技量。私もこれまでに多くのファンタジー小説を読んできましたが、これには素直に脱帽です。
この作品を入賞にしない理由なんて「モフモフしたくても鯨に毛が生えていない」ことくらいのものです。なに鯨のヒゲはきっとモフモフなのでは?
作品の完成度に比べたらなんと些細なことでしょう。
魔法王国に生まれながら魔法が苦手な少年。
不憫に思った両親から受け取った水族館のパスポート。
彼が通いつめたのは、この世界では既に絶滅した鯨の水槽。
復活の魔法は期限つきで、鯨との別れはある日突然やってくるのですが……。
この作品はそこで終わらない。それが何とも美しく素晴らしい。
水槽に閉じ込められた世界で一匹だけの鯨を見ながら少年は何を思うのか。
別れを乗り越えた先で彼が見つけた自分の居場所とは?
生き物には、人間の理解できない独自の世界があって百パーセント分かり合うことはどんな研究者にも出来ないのかもしれません。大海原の王者を水槽に閉じ込めていたのなら尚更です。でも、だからこそ「違い」を乗り越えて「共感」できた所に価値があるのでしょう。
人と動物の物語でもっとも美しいのは共感だと思うのです。