最終幕『願い事』

「あ、やっと見つけた!」


聞き慣れた声が後方から聞こえ、私はゆっくりと振り向いた。

息を切らした円が、こちらへやって来る。


「もー、勝手にどっか行かないでよ!」


帰っちゃったのかと思った、と円。


「いやぁ、ごめんごめん。ちょっと不可抗力で。」


「なにそれ。」


彼女は呆れた様に溜め息をこぼす。


「まぁ、大体想像はついたけどさ。」


ここは石造りのベンチのある、尾上池公園の一角だ。円はまわりの景色を見渡して言った。


「ここ、小さい頃から好きだったよね……たまき。」


私の後ろを、風が吹き抜けていく。


「流石。わかってるね、円!」


そう言ってベンチから立ち上がった私、津田環つだ たまきは、ははっ!と声をたてて笑ったのだった。




「環、もう勝手にどっか行っちゃ駄目だよ?」


月明かりに照らされた夜の道を、一組の親子が歩いている。


「ごめんなさーい。」


母親に連れられた幼い娘は、母親の手を握っているのとは反対の手で、そっとワンピースのポケットの中から一枚のメモを取り出した。この祭に来る前に書いておいたものだ。


彼女はこの先、自分が上手く生きていくことが出来るのか、とても不安だった。そして最近、直接『本人』にそれを聞けるかもしれない方法を知ったのだ。


学校で聞いた祭の噂が本当なのかどうかは結局わからずじまいだったが、彼女の気持ちは今、とても満たされていた。


夜空に輝く月にメモ用紙をかざす。


「未来のつだ たまき」


自分はいつか、きっと変われる。

そう思えた彼女はにっこりと微笑んだ。

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灯籠祭 花染 メイ @6i0to38re

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