第1話「北のウォール街のレストラン④」

 サワさんがテーブルへ戻ってきたとき、すでに追加注文したデザートはテンとスイの前に並んでいて、端から順にブラックホールへ吸い込まれているところだった。


「サワ、どれか食べる?」


 テンが食べる手を止めずに言う。サワさんはちょっとなと言いながら、テンの前に置かれていたティラミスの皿を一つ取った。

 あっという間に消えていくデザートたち。


「「ごっちそうさっまでっした~」」


 程なくして、口の端に生クリームをつけたまま、テンとスイが満足そうに声を揃えた。

 食事が終わり、スハラが会計を行う。

合計金額を見たスハラの笑顔が一瞬固まったように見えたけど、俺は見て見ぬふりをすることにした。あれだけ食べれば、それなりの金額になるだろう。テンとスイの底力を見た気がする。

 会計を終えて、外へ出ようとすると、ユキさんから声をかけられた。


「みんな、楽しんでくれた?」

「えぇ、料理も全部、とてもおいしかったわ」


 オルガが応じる。スイとテンもおいしかったーと尻尾を振っている。


「それは良かった。みんな、また来てね~」


ユキさんはひらひらと手を振りながら、一瞬だけこっちを見たような気がしたけど、それは気のせいだったかもしれない。


「サワもまた来てね」


 ひとりだけ名前を呼ばれたサワさんは、軽く頷いたようだ。

 じゃあまたと言って、俺たちは小樽バインを後にする。

 外は、ここに来た時にはなかった雪が少しだけ積もっていた。みんな、雪を見てちょっとだけうれしそうだ。

 空を見上げると、雲はすでになく、青空が広がっている。

 今年は、いろいろなことがあった一年だったけれど、それももうすぐ終わる。


来年はもっといいことが多ければいいと、俺は密かに願いを込めた。


※ ※


 そのヒトが、ユキとサワのやりとりを聞いたのは偶然だった。


 自分たちの存在をどう考えるか。人との在り方をどう捉えるか。

 それはヒトそれぞれだろう。

 自分だって、どう考えているかと言われると、きっと簡単には答えられない。

 ただずっと、人からも、ヒトからも距離は置いてきた。


 少しの間、立ち止まる。


 散歩から帰って来たフクロウが肩に止まった。


―――いや、今は、こいつがいればいい。


 そのヒトは、雑踏に紛れるように歩き出す。

 にわかに降りだした雪が辺りを白一色に変えてゆく中、その姿は、あっという間に見えなくなった。

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

坂の上のつくも 小樽歴建×擬人化プロジェクト @rekiken-gijipro

★で称える

この小説が面白かったら★をつけてください。おすすめレビューも書けます。

フォローしてこの作品の続きを読もう

この小説のおすすめレビューを見る

この小説のタグ