陣式の授業『入門』
「私が陣式の能力を身につけたのは、誰かに習ってとかそういうわけじゃないんだ」
「習っていない…つまり、独学で今までやてきたということですか?」
校長先生…海色さんのお父さんが言っていた、独学で能力の技術を身につけた例外というのは、海色さんだったということでしょうか。
「小さい頃から自分で色々と試しているうちにできるようになってね…うまく教えられる自信がないんだよ」
「そうなんですね…」
確かに、教え方とか海色さんは知らないかもしれません。
けれど!
「別にいいですよ?」
「…へ?」
「というか、私は海色さん以外に教えていただける方がいないんですよ? 陣式って確か少ないんでしたっけ、私はただでさえこの町の知り合いがいないんですから…私は海色さんに教えてもらいたいんです!」
私が捲し立てると、海色さんは「そ、そう…」と目を逸らしました。
…引かれてしまったでしょうか。
それと、食堂には私たち以外の人はいなかったので、私の大声は他の方に聞かれずにすみました。
…厨房の方には、多分聞かれているのでしょうが…。
****
しばらくの間、私と海色さんは黙って食事を続けました。
そして、海色さんが食べ終わって返却口に食器を戻し、私もそれに倣い、再び着席した時、ようやく海色さんは口を開きました。
「…本当に、いいの?」
「はい」
しっかり返事をすると、「そう…」と俯きました。
…やっぱり、難しいでしょうか。
と、直ぐ顔をあげた海色さんの表情は、私の心配とはかけ離れたものでした。
「それじゃあ、うまくやれる自信はないけど、これからよろしくね!」
「…! はい!」
結局、私の望み通り、海色さんに教えてもらえることになりました!
…能力というものを全くわかっていないので、正直教えられてもうまくできるわかりませんが。
その後、私は海色さんの家にお邪魔しました。
道中は、大したことのない雑談程度の話しかしませんでしたが、それでも、私にとっては初めてのもので、それはとても幸せな時間でした。
そして、それはまだまだ続くようです!
****
「じゃ、ついてきて〜」
「お、お邪魔します…」
海色さんのお宅は、私の家おtは違い、中も外見通り…というわけでもない(中は洋風でした)ですが、陣によって中だけ広くなってるとか、そういう超常的な点はありませんでした。
家の中は静かで、どうやらご両親はご不在のようです。
先生というのは、やはり授業が終わってもお仕事があるものなのですね…大変そうです。
そのまま案内された部屋は、海色さんの私室でした。
中は…なんというか、物が少ないような感じでした。先生曰く、女の子の部屋は可愛い物がいっぱい!らしいのですが…全然そんなことはありませんでした。
ただ気になるのは、とにかく引き出しが多い箪笥がひとつあること。そして、勉強机の上には、二つの籠のようなペンケースがあり、一つは普通のペンや鉛筆が入っているのですが、もう一つは大量のチョークが入っていたのです。
「まぁ、何もないわけじゃないけど、もてなすものもないんだ、ごめんね。適当にベッドか何かに座って置いて」
「あっいえ、お構いなく…その、机の上のチョークは、何に使うんですか?」
「あぁ、それは地面に陣を描くためのやつだね」
なるほど…神社の階段にたくさん描いてあったものも、確かにチョークで描かれていました。
「それじゃあ、何から教えようか…。舞香は、能力を行使するところもあまり見たことなかったよね?」
「そうですね。川で遊んでいる人たちはよくわかりませんでしたし、家を広くするものも同じです」
「うーん、じゃあまずは実演しようかな。エニマの使い方はそのあと教えるよ」
「お、お願いします…」
そして海色さんは、奥の箪笥の引き出しを開けて、中から一枚の紙…簡易古式の札らしきものを取り出しました。
「外にいこっか」
…どうやら、室内では扱えないもののようです。少しだけ、怖くなってきました…。
やってきたのは裏庭でした。
「それじゃあ、ちょっと離れててね。簡単な術ではあるけれど…」
そういうと、海色さんは札を地面に置きます。すると、札に書いてあった二つの術式が光出し…
「…ひゃっ!?」
札を置いたあたりの地面が盛り上がり始めました! そしてそれは勢いを強め、そのまま3メートルくらいの高さまで盛り上がったのです。
「え…え…!?」
「あはは、結構驚くねえ。これは、単純に土を盛り上げる術式だよ。盛り上げるというか、土の柱を作る、かな?」
「な、なるほど…」
これが簡単な術式ですか…難しい術式はどれくらい凄いことができるのでしょうか…。
「でも、この術式を応用して壁を作ったり、そこから階段を作ったりすることができるんだ。かなりオーソドックスなものだよ」
「そ、そうですか…」
恐る恐る柱を突いてみます。すると、触れたところがポロポロと崩れていきました。
思っていたよりも脆いみたいです。
「…あまり触りすぎると一気に崩れるから、程々にね?」
「…!?」
慌てて離れます。海色さんはそんな私をみて微笑みながら、説明を続けます。
「この術式は、ただ土を盛り上げるもの。しばらくすると札のエニマが切れて、結局崩れちゃうんだ。維持しておきたい場合は、土を固める術式も使わないといけない」
「なるほど…」
「ちなみに、純粋な古式の札は盛り上げてから固めるまで一枚でできるんだけどね…。固める術式ってなかなか複雑で、簡易古式だと描ききれないんだよ…複数を一度に、というのはできるんだけど…」
やはり、簡易古式に出来ることは限界があるようです。それも、思っていたよりも限度が厳しそうな…。
「それじゃあ、次は普通の陣式をお見せしようかな」
「お、お願いします…」
そういうと、海色さんはスカートのポケットから小さなビニールの小袋を取り出しまあした。中には…土のような、茶色の粉末が入っていました。
今度は、先ほどよりもすごいのが来そう…な気がするような、しないような…。
い、いえ、気がします!
****
「…へぇ、
利田町北部のとある建物に、彼女はいた。
「まぁそれに、外から来たひよっこを構ってる時間なんてないしねぇ…」
彼女は部下から渡された書類を見ながら、そう呟く。
部屋の中は、物が散乱し、荒れ果てていた。
この建物のある場所は、最も治安が悪いと言われている利田町北部。その山の中である。
「…ま、このままほっといていいよ。安賀の方もこれまで通り適当に撒いといて」
彼女の言葉に、取り巻きは一斉に頷き、その場を立ち去る。
1人残った彼女は、部屋の中で唯一きれいな状態のベッドに横たわり、間も無く寝息を立て始める。
部屋の地面では、幾つもの巨大な陣が鈍く光を放っていた。
彼女はモノクルの中で咲う。 Yumil @sunrise
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