入学と適性③


 適性検査は、校舎の隅の方の部屋で行われました。そして、その部屋の床には小さな陣が刻んであり、まずはその上に立たされました。


 結果だけ言うと、私は陣式でした。その陣の行使ができた…らしいのです。実感はありませんでしたが。


 もし、陣式ではない場合、陣は行使できないため、今度は古式の札を用いるそうです。

 消去法ですね。


 ということで、能力の師匠は海色さんに決定しました! …私の脳内では、ですが。


 そして今は…、海色さんもいる、教室の前にいます。


「それじゃあ、私が少ししたら呼びますので、そうしたら入って来てください」

「…はい」


 緊張で背中がムズムズします。

 多人数での授業とか、どう言う感じなのでしょうか…。そもそも、他の方々と仲良くできるでしょうか…。

 いじめ、という仲間外れだとか暴力といったものもあると先生は言っていましたし…。


「––それじゃあ、姫咲さん、どうぞ入ってきてください」

「…は、はい!」


 呼ばれて慌ててドアを開けます。

 すると、教室の中から複数人の視線が一気に集まります。


 悲鳴をあげそうになるのをこらえて、教壇の上に乗ります。


 教室には、10人の生徒が座っていました。思ったより少なめです。


「それじゃあ、黒板に名前を書いてから、自己紹介をお願いします」

「わ、わかりました」


 黒板の下あたりに置いてある…これが、チョークというものでしょうか。先生に名前と簡単な使い方だけ教えてもらいましたが…


 チョークを見ていると、教室が静まり返っていることに気づき、慌てて黒板に校長室で初めてみた自分の苗字と、名前を書いて再び前を向きます。


「え、えっと…姫咲、舞香です。この町のこととか全然分かりませんが、どうぞよろしくお願いします…!」


 言い切ってから頭を下げます。


 暫くして頭を上げても、教室の皆さんは何も声もあげず、じっと私を見ていました。


「えっと…」


 戸惑っていると、梶間先生が沈黙を破りました。


「それじゃあ、姫咲さんは…最後列の窓側か廊下側、どちらがいいですか?」


 そう言われて教室の奥を見ると…海色さんが最後列の窓際から2番目の席にいたので、そちらを選びました。

 頷いた梶間先生に促され、その席に座ります。


 海色さんと隣になったのはとても喜ばしいことなのですが…当の海色さんは寝てしまっていました。


 その後先生が新学期やら何やら話し始めても、起きないまま…。

 今日は授業等は無いようで、暫く梶間先生が予定について話した後、体育館の方に移動することになりました。


 ぼちぼち他のみんなが席を立ちはじめても、海色さんは起きず、机に突っ伏しています。

 流石にまずいと思い、頭をツンツン突きます。


「あ、あの、海色さん…体育館に移動するそうです、よ…?」

「…ぅい?」


 漸く起きました。


「早く行かないと、何するかわかんないですけど始まっちゃいますよ?」

「…ぁれ? 舞香…?」


 じっと私を見つめていると、目が覚めてきたのかだんだん目が見開かれていきます。


「ま…舞香が学校に!? …って、そうか。今日から来るんだったなぁ…」

「そ、そんなこといいですから、体育館行きましょう?」


 私がそう言うと、海色さんは再び机に突っ伏してしまいました。

 って、ちょっと…!?


「海色さん!?」

「あー、いいのいいの、どーせ校長先生とやらのありがたぁいお言葉いただくとか、そう言うのだけだし。ここで寝てても何も言われないよ〜」


 な、なんてことを…。

 校長先生の苦労が、少しわかった気がします…。



 私の苦労のかい無しに、海色さんの説得には失敗し…。

 なぜだか私も移動(海色さん曰く始業式…って式って大事なものじゃいんですか!?)をサボってしまうことになりました。


 …入学早々、先が不安で仕方ありません。主に海色さんのせいな気もしますが。


****


 暫く時間が過ぎると、教室に他の生徒さんが戻ってきました。

 教室でサボっていた私達を非難したりは…しませんでした。皆さん私と海色さんをチラッと見ると、何もなかったように席に座って静かにしているのです。


 なんだか変わった方々ですね。いや、初日に式をサボった私がいえたことでは無いかもしれませんが。


 結局、再び寝てしまった海色さんは、先生が帰りの挨拶をして、他の生徒さんがいなくなってから起きました。その間、私は外の景色を眺める以外することがありませんでした。


 窓からは、左手には川とその奥の壁、右手には山が見えました。山の奥の方には、やはり壁が少し見えます。

 改めて、この町は厳重に他の町から切り離された場所なのだと言うことを、実感しました。

 …能力者アクセサーと言う存在は、そこまで危険なものなのでしょうか。少し歩いただけですが、治安が悪いようには感じませんでしたし…。



 他の生徒さんがいなくなった後、私は先程起きたばかりの海色さんに連れられて、学食というところに来ていました。

 なんでも、ここではお昼に限って、好きなメニューを一食だけ無料で食べられるそうなのです!


 お昼であれば、学校が空いている日ならいつでも利用できるそうで、「せっかく登校したなら」と、連れてこられました。


「私は適当にカレーでも食べるけど、舞香は何がいい?」

「えーっと…なんかいっぱいありますね」


 海色さんによると、メニューの多さの理由は殆ど全てがレトルト食品だからだそうです。


 学食は券売機?というもので食券を買って、それと引き換えに食事をいただくそうです。

 ちなみに券売機の値段設定は全て0円でした。

 本当に無料なんですね。


 どれも食べたことのない料理ばかりでかなり迷いましたが、正直どんな味がするかもわからないので、海色さんと同じカレーを選びました。


 食券を渡すと思ったよりすぐに出てきたカレーを持って、向かい合って席に座ります。


「舞香ってこの後用事ある?」

「いえ、私物も特にないので荷解きの必要もありませんし、家で何かする、というのはないですね」


 カレーと言う食べ物ですが…凄く味が濃くて、美味しいです。味が濃いと言う感想しか出てこないくらい、慣れない刺激ですが…。


「それじゃあ、私の家に来ない? 一昨日は前を通っただけだったけどさ…」

「海色さんのお宅ですか…?」

「うん。舞香のこと話したら、両親がすごく会いたがってさ。あ、父さんにはもう会ってるか、校長だし」

「そうですね…先程お話しはしました」


 そして、あなたのことをよろしくって言われました…。


「そういえば、舞香は適性どうだった?」


 …そうでした!


「陣式に適性がありました! これで海色さんに教えてもらえますね!」

「お〜、よかったよかった。まぁ、教えるかどうかは、もう少し経ってから決めたほうがいいかもよ?」


 それは…どう言うことでしょうか。

 も、もしかしたら、私に教えるのが嫌だったりとか…


 思わず俯いてしまうと、海色さんは慌てたように話します。


「あ、えっとね、私ってなんかクラスの中で浮いてると言うか、そんな私に教えられたら舞香も避けられちゃうかもしれないし…。それに、私って普通の教え方できるかわからないし…」

「…今のところは、海色さんと仲良くするだけで私は十分ですよ? しばらくしたら、もう少し友達欲しい〜とか、欲張っちゃうかもしれませんが」


 そもそも、海色さんは初めての友達ですから。これまで1人もいなかった私にとっては、1人いるだけでも十分に思えてしまいます。


 それより、普通の教え方、とは何なのでしょう。教科書とかあるんですかね。


「普通の教え方ができない、ってどう言うことですか?」


 そう聞くと、海色さんは気まずそうな表情を浮かべながら、説明してくださいました。

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