入学と適性②


 さて、入学式当日になりました。

 海色さん達在校生と比べると少し遅めの時間に、私は校門を潜りました。


「職員玄関は…こちらですかね」


 家に置いてあった学校に関する書類にあった地図を頼りに、私は学校の先教師の方との待ち合わせ場所に向かいます。


 私が通うことになった学校は、外から見るとかなり大きな建物でしたが、実際に敷地内から見るとかなり印象が変わりました。

 校舎は3階建てで、殆ど豆腐のような形をしているのですか、校門から入って右側半分は一つの大きな部屋…先生に教えてもらった体育館でした。


 先生からの授業で教えてもらった学校の体育館は、殆どの場合校舎とは分かれていましたが…特殊な例の一つなのでしょう。


「おはようございます。姫咲舞香さんですか?」


 突然かけられた声に、書類をじっと睨んでいた私はハッと顔を上げます。

 すると目の前には、初老の男性がニコニコと笑みながら立っていました。


 そして、気づけば玄関前でした。


「は、はい! 舞香と申します。こ、これからよろしくお願いします!」

「あなたの担任の梶間です。こちらこそ、よろしくお願いします」


 慌てて頭を下げると、男性…梶間先生は挨拶を返してくださいました。


「その、姫咲きさきというのは…」

「あぁ、あなたの新しい苗字ですね。つけたのは、あなたの担当医さんだそうですよ」

「そうですか…姫咲…」


 先生につけていただいた名前…。

 少し、ニヤついてしまったのがバレてないといいのですが。


 そのまま、梶間先生の案内で校舎内に入ります。


「お、お邪魔します…」


 思わずの呟きに、梶間先生はにっこりと笑いました。


 うぅ…失敗続きです…。



****


 その後、梶間先生に案内されるままやってきた部屋は、校長室でした。


 …あれ? 入学式とは、校長室でやるものでしたっけ?


 何度見返しても、部屋の扉の表札には『校長室』と刻まれています。


 私が首を傾げていると、梶間先生は気にせずその扉をノックします。

 するとすぐに、「どうぞ」と男性の声が聞こえてきました。


 扉が開き、梶間先生に促されるままに中へと入ります。

 中には、高そうな執務机が一つ、それと低めのテーブルを挟んで、大きなソファーが2つ、置かれていました。


「し、失礼します…」

「ようこそ、姫咲舞香さん。


「し、失礼します…」

「ようこそ、姫咲舞香さん。梶間先生も、ここまでありがとうございます。どうぞおかけください」


 目の前の男性…校長室にいるということは、校長先生でしょうか…の言葉に、私は恐る恐るソファーへと腰をかけます。

 梶間先生は、校長先生側のソファーへ座りました。


 校長先生は、意外というかなんというか、若い方でした。隣に座る梶間先生と比べてしまうからでしょうか。

 あまり男性の見た目は分かりませんが…30歳くらいでしようか。


「突然こんなところに連れ込まれて、戸惑っていることでしょう。まずは自己紹介から。この学校…特に固有の学校名はないのですが、その校長をしています、安賀 俊樹です。そしてこちらが、今年の姫咲さんの担任の梶間先生です」

「わ、私は、舞香……姫咲舞香です。これからお世話になります」


 私含め3人は、同時に頭を下げました。


 安賀校長先生…。


 …安賀?


「えと、校長先生って、海色さんの親族の方だったりしますか…?」

「おや、海色のお知り合いでしたか。海色は私の娘になります」

「な、なるほど…」


 海色さんは、学校長さんの娘さんでした。


 やっぱり凄い方でした…。


「あの…」


 考え込んでしまっていた私はハッと顔を上げると、なんだか先ほどとは違った表情の校長先生がこちらをみていました。


「な、なんでしょう…」

「…海色についてなのですが。…どうも、クラス内、延いては学校内で少々孤立してしまっているようなのです。何卒、仲良くしてやってください」


 そう言って先生は頭を下げました。


「あ、頭を上げてください…! 海色さんにはこの町に来てすぐに知り合いまして、その、色々とお世話になりまして…」


 すると校長先生は頭を上げて、安心した表情を浮かべました。


「…よかった。末永く、お願い致します」


 末長くって…なんだか意味合いが変わってきてしまいそうな気もしますが…。


「それでは、学校について、概要は事前に書類で確認されているでしょうが、説明させていただきますね。そのあとは適性検査を行っていただき、最後にクラスの方で皆さんに自己紹介をして頂きます」

「は、はい…」


 適性検査…! 海色さんと同じだといいのですが…。


 暫くの間、梶間先生が書類を私の前に並べる間、沈黙が降りました。



「…それでは。この学校は、基本方針は一般の学校とは特に変わりありません。珍しい点といえば、生徒数が少ないため一クラス内に学年が違う生徒がいること、そして部活動が一切存在しないことくらいです。その他は殆ど特別な点はなく、生徒が日々勉学に励んでいます」

「勉学、ですか…?」


 能力者アクセサーが集まる学校と聞いて、能力に関する勉強を行なっていると思いましたが、どうやら違うようでした。


「はい。利田町では世間一般的な高校…18歳までが義務教育という点も変といえば変でしょうか」

「…あの、質問よろしいでしょうか」


 私が恐る恐る手を挙げると、校長先生は笑って「どうぞ」と促します。


「ここは、能力者アクセサーのみがいる学校なんですよね…? その、能力に関する授業とか、そういうものはないのですか?」


 私の質問に、先生は「そうですね…」と説明してくださいます。


「確かにここには能力者アクセサーしかいません。斯く言う私もその1人です。…しかし、政府の方針で能力の育成は学校では行われません」

「…それじゃあ、能力についてはどうやって学ぶのですか?」

「それについては『弟子制度』と言うものが存在しています。もちろん、非公式なものですが、この学校、この町の伝統みたいなものですね」


 弟子制度…。先日海色さんが私に教えてみたい、と言っていたのもそれでしょうか。


「弟子制度というのは、同じ適性を持った先輩もしくは能力行使における上級者に、教えを乞い、能力のノウハウを取得する制度です。姫咲さんもこの後行う適性検査の後、クラスで暫くの間他の生徒と時間を共にして相談等もしていただき、師事する方を決めていただきます」

「なるほど…。独学で、と言う方法はないのですか?」


 私がそう聞くと、校長先生は苦笑いをしました。


「独学というのは、殆ど無理ですね。もちろん、それが可能な例外もいますが…」

「い、いるんですね…」

「えぇ、意外と身近に」


 校長室の中が、奇妙な空気に包まれました。


 とりあえず、能力の「の」の字もわからない私は、同じ適性の方に教えてもらうしかなさそうです。

 …できれば、海色さんに教えてもらいたいところです。


 その後、細かいその他の説明をしていただいた後、私は適性検査を行うために、梶間先生とともに校長室を後にしました。

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