入学と適性


 あの後、しばらく休憩してから、家の前での続きのお話をしてもらうことにしました。


 紅茶も備え付けてあったので、海色さんに了承をもらっていれます。


「はい、どうぞ」

「ありがと……さて、能力の適性について、だったかな?」

「はい。お願いします」


 海色さんは紅茶に口をつけ、カップを置いて息を吐きました。


「まず、アクセサーの適性は体式、陣式、古式、語式の全部で4種類ある。そして基本、1人一つの適性しか持っていない。例外はあるけどね」

「それが先ほど言っていた、簡易古式、と言うものですか?」

「うん、そう。まず、古式の能力っていうのは、エニマ…能力の源みたいなもの?を練り込んだ特別な紙に、能力を行使するための様々な図形を描き込んだものを用いるんだ」

「それが、掃除札と言っていたものや、鳥居に貼り付けられていたものですか?」


 そう聞くと、海色さんはすこーし目を逸らしました。


「う、うん……まぁ鳥居のは私のもあるけど…」

「な、なるほど…それで、簡易古式というものは…?」

「えっとね、古式の札に描き込まれる術式と、私が扱う陣式の陣は、結構仕組みが似ているんだよ。互換性は無いけどね。それで、古式の術式を描き込むための紙に、陣式の陣を描き込み、それを用いた能力を簡易古式って言うんだよ」


 なるほど…

 でもそれだと、古式の存在意義が危ぶまれるのでは?


「そうはならないんだ。互換性がないと言ったけれど、古式と陣式では行き着くところが違うんだ。古式は、狭い紙の中にどれだけ細かく術式を描き込むことができるか、と言う点を突き詰めてる。対して陣式は、大きさは関係なく、どれだけ大規模に陣を描けるか、とか、どれだけ効率的で大きな陣を描けるか、と言う方面の研究ばかりしてるんだ。だから、簡易古式の分野で古式に勝てることはまずないかな」

「なるほど…。簡易古式についてはわかりました。他に例外とかってあったりするんですか?」


 私のその質問には、海色さんは苦笑いで返しました。


「あとは、天才ってのがたまーにいるもんでね…。陣式と古式が両方使えたり、さらには語式も使えたり。そんなの、記録に残っている限りで1人しかいないけれどね」

「そ、そうですか…。その、語式というものと、残りの体式についても教えていただけますか?」


 海色さんは「いいよ」と返してから、再び紅茶を一口飲んでから、座り直します。


「語式については…これは1番理解しやすいんじゃないかな。ファンタジー小説みたいに、言葉で能力を行使する、魔法みたいなものだよ」

「…なるほど! ところで、どんな呪文を唱えたりするんですか?」

「それは、わからない・・・・・。語式が扱う言語は、語式の適性者にしか理解できないんだ。理解できたら、もうその人は語式を使うことができる。だって、唱えるだけで能力を行使できるんだからね」

「そ、そうですか…」


 ということは、街中で語式の適性者の方が大声で能力を行使しようとしても、誰も何をしようとしているかわからない…と…。

 あ、でもこの町に一般の方はあまりいないんでしたっけ…? 隔離地区だと言っていましたし。


「続いて体式だけど、これはこれで単純だよ。体に術式…陣式で言う陣みたいなものを刻んで、そこにエニマを通して能力を行使するんだ」

「え、刻むんですか? それは…痛そうですね」

「あはは…。実際痛いらしいよ。けれど、ちゃんと使えるようにしておかないと、この町ではいざと言うときに自分の身を守れないからね…」


 そ、そんなに物騒な町だったのですか?

 歩いた感じそんなふうには見えませんでしたし。

 …そういえば、表立って騒ぎを起こさなくなったとも言っていましたっけ。


「なるほど、ありがとうございます。そういえば、その適性というものは偏りとかあるんですか? 考えてみると、適性によってできることに結構差がありそうなものですが…」

「偏りは、かなり大きいよ。というか、ほとんどのアクセサーは体式なんだ。10で割ると、古式、陣式、語式がそれぞれ1。あとは全員体式だね」


 そ、そんなに体式の方は多いんですね…

 私もそれだったらどうしましょう…体に刻むというのは、なんというか忌避感があります。


「…適性は、今ここで分かったりするんですか?」


 そう聞くと、海色さんは少し顔を顰めました。


「舞香の適性は私も気になるんだけど…診断をするのは学校に入学した時って決まっていてね。今ここで試したら、私が捕まっちゃうかな?」


 そう言って海色さんは笑いました。


 …笑い事でもない気がします。


「それじゃあ、明後日を待つしかなさそうですね」

「そうだね…。私は、舞香に教えてみたいから、陣式だとありがたいかなぁ」

「そうですね。私が陣式の適性があったら、ぜひお願いします」


 海色さんが教えてくださるのは、なんというかとても助かります。

 まだ、この町に知り合いは…3人しかいませんから。



 その後、話を終えた海色さんは、冷め切ってしまった紅茶を飲み干したあと、「せっかくだし、明後日一緒に学校行こっか!」と誘ってくださいました。

 …残念ながら、新入生である私とは登校時間が大きく違ったようで、無理でしたが。


 けれど、それ以降は一緒に通えるようで、安心しました。



 話し続けて気がつけば夕暮れ時。海色さんを見送ったあと、疲れ果ててしまった私はお風呂に入ったりと必要最低限のことをしたあと、夕飯も食べずに寝ることにしました。



 翌日…入学の前日は、外に出ることなく、家の中のものを確認したり、学校で必要なものを確認したりと、準備に時間を費やしました。


 …適性が陣式だと良いのですが、10分の1の確率…。不安です。

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