道案内と初めての友達②
「…ここだね」
「え…」
そして歩く事15分。ようやく、用意されたという私の家に着きました。
着いたのはいいのですが…
「…大きくないですか?」
「うん…舞香って1人、だよね?」
「そうです」
「えぇー…」
そう、大きすぎたのです。
普通なら大家族が住むであろう日本家屋…? 畑を管理する農家の方々と全く同じ家でした。
しかも、立派な倉庫…蔵と言うのでしょうか。そんなものまですぐ側に建てられています。
「掃除、大丈夫でしょうか…」
私の呟きに、海色さんは「それは大丈夫」と言います。
「常時綺麗にする感じの札があちこちに貼られてると思うから、舞香が気にするのは汚れだけで良いと思うよ」
な、なるほど…それも能力でしょうか、とても便利な使い方もあるのてすね…
「それは、とても便利ですね…その札と言うものは、海色さんも作ることができるのですか?」
私の質問に、舞香さんは否定で返しました。
「この札…そのまま掃除札って呼ばれてるんだけど、これは古式の領分でね。私は陣式の適性者だから、使うことはできないかな…」
「なるほど、掃除というだけでも難しいものだったのですね…そういえば先ほども言っていましたが、能力には適性というものがあるのですか? 体式とか、陣式とか…」
海色さんは頷きます。
「あとは、古式と語式だね。それぞれ違う言語を使うから、基本は誰でも一つの適性しか持っていないんだ。例外は色々とあるけどね」
「なるほど、それで海色さんは陣式の適性者、ということですか?」
「うん」
けれど、と海色さんは続けます。
「例外の一つとして、私みたいな陣式のアクセサーが扱う『簡易古式』っていうのがあってね」
「簡易古式…?」
文字から読むと、簡単な古式の能力のようですが…
「…と、説明が長くなりそうだから、中でしようか。…あ、私も上がらせてもらっていいかな…?」
「そうですね…家の前で話すのも何だか変ですし。まだ私の家という感覚もないですか、どうぞ上がっていってください」
そう言いながらドアに手をかけ…あれ? そう言えば鍵を預かっていません。
海色さんにその事を言うと、「あ、初めてだったか」と言って、ドアノブの上の方の…刻んである陣を指しました。
「ここに手を当てて、自分の名前を言うんだ。フルネームでね。それでその人のエニマが登録されるよ」
「な…なるほど……便利、なのでしょうか」
言われた通りに、陣に手を当てて、「舞香」と唱えます。
…これは、事前に引っ越してくる人の名前が分かっていたらかなり危ないのではないでしょうか…
海色さん曰く、外部からやってくる人の名前や引越し先は軍と町役場が厳重に管理しているそうで、これまで漏れたことは一度もないだとか。
本気度が伺えますね…
ふと、私が名前を唱える様子を見ていた海色さんが首をかしげました。
「舞香って…苗字は無いの?」
あぁ、その事ですか。
「私も詳しくは知らないのですが、先生によると私の両親は戸籍を抹消されているそうなんです。それで、私については書き換え作業の途中らしく、暫くは苗字がないそうなんです」
「え…あ、ご、ごめん…なんか変なこと聞いちゃって…」
私の説明に、海色さんは気まずそうな表情を浮かべました。
「いえ、両親については…私も覚えていないので、気にしなくても良いですよ。苗字については、明後日の入学の時までには決まるらしいので」
また空気が変な感じになってしまったので、ドアを開けて海色さんを家の中に押し込みます。
すると中から、「わぁ…!」と海色さんの歓声が聞こえてきました。
「どうしました?」
「凄いよ舞香! 外から来る人はめちゃくちゃ良い待遇で向かい入れるって聞いたけど、本当だったんだ!」
慌てて中を覗くと…
外観とは全く違った、広々とした洋風のエントランスホールが…
えぇ!?
「ちょ、ちょっと待ってください! 何ですかこの広さは!? 明らかに家の屋根より天井高いですよね!?」
私の叫びに、海色さんは落ち着いた感じで(興奮で顔が赤くなっていましたが)説明してくれました。
「この広さは、陣式の能力だよ」
「こ、これも能力なんですか」
「うん。それにこれ、私のところに注文が来たやつだよ」
…えぇ!?
「海色さんがこれを作ったんですか…」
「そうだね。半年くらい前に、馬鹿でかい空間拡張の陣を刻んだんだよね…そう言えばここだったなぁ」
海色さんは、思っていたよりも凄い方かもしれません。
それと、「口調はともかく名前は呼び捨てで頼むよ?」と、額をつつかれました。
****
家の中には、生活に必要なものがほぼ全て揃っていました。
…冷蔵庫の中までいっぱいでした。
「…こんなに、どうやって消費すれば良いんでしょうか。それなりに使えば、冷凍庫に入りますかね…」
先生が言ってました。
『賞味期限なんて冷凍すれば無限だから』
…確かにそうなのでしょうが…
先生は、一人暮らしを拗らせてしまっている気がします。
でも、そのおかげで先生からはある程度料理も教えてもらえました。
…そうだ、海色さんにも食べて行ってもらいましょう。お昼まだかもしれませんし。
冷蔵庫を閉じると、ちょうどお風呂を見に行っていた海色さんが戻ってきました。
目がキラキラしています。可愛いです…
「凄いねここ! お風呂もめっちゃ広かった。なんか窓がおっきくてお庭が一望できる感じだったよー!」
「窓ですか…そういえば、中が広くても窓はちゃんと使えるんですね」
「そだね。なんというか、こう、つなげる感じ?」
海色さんはそう言いながら身振り手振りで説明してくれましたが…動きについてはよくわかりませんでした。
思わず笑ってしまいながら、お昼をもう食べたか聞くと、まだだったようでした。
「それじゃあ、ついでに食べていきますか? 先生に料理も教えてもらったので、簡単なものなら!」
「い、いや、それはなんか申し訳ないし…」
「ぜひ食べていってください。…というか、冷蔵庫の中身が多すぎて、私じゃ消費しきれないんです…」
そう言って冷蔵庫の中を見せると、海色さんは納得したようです。
「それじゃあ、私も手伝うよ。食べるだけってのもアレだし、さ」
「ありがとうございます」
「それで、何を作るの?」
「それはですね〜…」
先生曰く、一人暮らしでよく安売りキャベツを消費するために作るやつ(※個人の意見です)!
「お好み焼きです!」
私の宣言に、海色さんはポカーンとして黙り込んでしまいました。
「お昼に、お好み焼き……?」
その後、冷蔵庫の中にあったキャベツ一玉が無くなるまで焼き続けました。
当然、食べ切ることなどできず…3分の2は冷凍庫行きとなりました。
なお、ついでにお好み焼きの粉も消費しきりました。
ソファーに伸びている、海色さんの恨めしそうな視線が痛いです。
結局、準備は海色さんの手助けなしですることになりました。
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