hiver

 冬の夜空は伸ばした手に星のきらめきを零してくれるのだと、少女は信じてやまなかった。


 太陽の活動時間は短く、代わりに月明かりが帰路を見守ってくれる。暗い時間に出歩くのは叱られるから、遊び盛りの子どもはつまらないと足をぶらつかせることが多い。


 そのおわびに夜が灯りを与えるのだ。どの季節よりも地上と距離を縮め、先の見えない夜道を迷わぬように小さな手のひらに淡いぬくもりを包ませて。


「だからね、いっぱいあそんでいいんだよ。前におじちゃんがお話ししてたの」

「よくねえよ。昨日また怒られてたろ」

「ちがうもん。あのね、お母さんたちが早く帰ってきちゃったの」


 くせっけの柔らかなブロンドがくしゃりと握られる。少年が軽く首を横に振れば操縦士みたいだと笑いだすので、ついていけないと抵抗は簡単に手放す。


 やがて前方の空が色彩に埋もれる。か細く頼りない笛の音が乾いた銃声に変わるのは、視界に大輪の花が咲いたほんの後のことだ。観覧場所に集まる人々が、誰からともなく気持ちの昂りを漏らすのと同じタイミングだった。


 初発に続き花火は間髪を入れず打ちあがる。


 小さなものが一か所にあがるときはいいが、四方八方に現れるとどこを見ればいいのかわからなくなる。あっちが消えればこっちに咲き、それもなくなったかと思えば高くたかく、月に届きそうなほどの上空から降り注ぐ光の粉。


 ついさっきまでお喋りに夢中だった口は「お」の形に固まり、言葉にならない声が止まらない。子どもの背丈では人込みに紛れて折角の花火が見えないと、少年の肩の上が少女の特等席だ。


 いつもより遥かに近づいた夜空に、短い腕が懸命に伸びる。


 時々街を訪れる「お人形のおじちゃん」が話していたのはこの事だったのだ、家に持って帰り、両親に教えてあげなくては。


 夢見がちな年齢の子どもに、それは手に入らないものだと伝えるのはまだやめておこうと、少女が転げ落ちないように少年はそっと力を込めた。

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おとぎに眠るシュガーナイト 涼瀬いつき @szssskk

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