屋上の叫び
カフェオレ
屋上の叫び
「我が人生に一片の悔いなし!」
高校の屋上でそう叫ぶと、俺は自身のこめかみに突きつけた銃の引き金を引く。
銃口から飛び出した弾丸は、反対側のこめかみに向かい肉を貫き、頭部に二つの風穴を開ける。崩れ落ちた俺の周囲には鮮血と共に脳みその欠片が飛び散っている——はずだった。
実際には弾なんか出ていない。学校中に響き渡るはずだった銃声の代わりに、あれ? という間抜けな言葉が口をついて出た。
全くの予想外なことに呆然と立ち尽くすしかない。それもそうだ。俺はこの日、こんなクソみたいな人生に別れを告げ、拳銃で頭を撃ち抜き伝説となる予定だったのだ。
俺は高校入学以来、三年生になってもなお友達が一人も出来ていない。部活も入り損ねた。また勉強も全くついて行けなくなり成績も良くない。そんなことだから、俺はクラスではバカにされ、嘲笑の的である。いつ自殺してもおかしくなかった。だけど憧れのクラスメイト、
辛辣なクラスメイトという砂漠の中にあるオアシスのような存在だ。
それなのに
高木は俺と同じクラスでサッカー部キャプテンの男だ。男女関係なく友達が多い。勉強も出来るらしい。よく女子が「イケメン」などと言っている。あんな声と態度がでかいだけでカリスマぶってるやつと西園寺さんが付き合ってるなんて許せん!
それから俺は高木を殺すべく、ネットで「銃 購入 違法」とバカみたいな羅列で検索し、一番それらしいサイトで拳銃を購入した。
そして今日の昼休憩、果敢にも俺の方から高木に喧嘩をふっかけ拳銃を取り出そうとしたところ、蹴りを入れられ返り討ちに遭い、見事クラスの笑いものになってしまった。あまりの恥ずかしさに俺は計画を変更。「死んでやる!」と叫び拳銃を振り回して屋上まで走って来たのだ。
なのに……クソ! 騙された! コツコツ貯めた小遣いと祖父が経営するカフェから盗んだ金とで揃えた十万円で買った拳銃は偽物だったのだ。こんな静かな田舎町で試し撃ちなんか出来なかったせいもある。冷静に考えれば分かるじゃないか。そんな簡単に拳銃なんか手に入るものか。
「おーい、
屋上までついて来た連中が俺を指差して笑っている。
クソ、何という屈辱。俺は悲しくなった。
拳銃自殺で皆に俺の心の叫びを聞かせるつもりがとんだ赤っ恥だ。
次第に苛立ちが募る。誰でもいいから殴りたい。ボコボコにしてやりたい。
俺を指差す連中を振り返る。あいつらの中で勝てそうなやつはいない。ならば他のやつらはどうだ? 女子はダメだ。西園寺さんに嫌われてしまう。
クソ! 俺が勝てそうなやつなんか誰も思い浮かばない!
なら中学生だ。下校途中のやつをいきなり襲えば……。いいや、やめておこう。返り討ちにあったら恥ずかしい。
小学生? それはダメだ。きっと西園寺さんは子供とか好きなはずだ。多分嫌われる。
なんだ、俺が確実に勝てそうなやつなんか誰もいないじゃないか。
また死にたくなってきた。どうしてこの右手の拳銃は偽物なんだ。十万もしたのに。
屋上から飛び降りる勇気はない。首を吊るのも怖い。
もういい、明日から学校になんか来てやらない。俺はふてくされるようにその場にしゃがみ込む。
「おい、吉田。なんでおもちゃなんか持ってんだよ。なんだよ『我が人生に一片の悔いなし!』って」
そう言って近づいて来たのは高木だった。俺の手から拳銃のおもちゃを奪い取り、俺のモノマネをし始めた。周りがそれを囃し立てる。
なんとでも言え、どうせ俺は何の取り柄もないバカにされるだけの存在だ。あんなこと言ったが俺の人生悔いだらけだ。本当は友達も欲しいし、西園寺さんみたいな彼女も欲しかった。死んだところですぐ忘れ去られるだけの人生なんかまっぴらだ。
不登校になる前に西園寺さんに会いに行こう。そう思い立ち上がった時、目の前で凄まじい「バァン」という爆発音のような音が響いた。鼓膜が破れそうな騒音の後、高木が崩れ落ちる。顔を横に向けて倒れた高木のこめかみには頭を貫通する二つの風穴。体の周りには鮮血と脳みその欠片が散らばっていた。
屋上の叫び カフェオレ @cafe443
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