毒虫鼎談

朽木桜斎

テーマ:存在とはいったいなんであるか

 進行役・堤中納言つつみちゅうなごんののたまえり


「えー、本日は、存在とはいったいなんであるかというテェマについて、むしめづる姫君ひめぎみならびに桜手折さくらたお中将ちゅうじょうさんをまじえ、語っていただきたいと思います」


 虫めづる姫君、進行を受けてはく


「存在とは這う毒虫である」


 桜手折る中将、これを受けて曰はく


「ほう、それはいかに?」


 しばしお二方の問答するところなりけり


「這うことに意味があるということである」


「蝶になることにではなく、なりや?」


しかり。這いつづけることこそ、存在の本懐である」


「這いつづけることがなにゆえ、存在の本懐なりや?」


「存在とは森羅万象しんらばんしょうなり。毒虫の這うことは、これに通ずることなりせば」


「それは、いかに?」


「決していたらぬとわかりもうされど、かに近づこうとすること、これぞ存在の本質なりけり。しかるに存在とは、這う毒虫である」


「はーはー、愉快、愉快。されど姫君、踏みつぶされる虫もまた、ありもうされば」


「然り。それもまた本質であり、存在の本懐である」


「いとおかし。しからば存在とは、虫のごとく小さきものなりや」


「あにはからんや、虫に大きさはなし。しかしながら、はかる虫はあり」


「はーはーはー、おかし、おかし。存在とは、いとおかし」


「それもまた、然り。存在とは、いとおかしけれ」


「はーはーはー、はーはーはー」


 堤中納言、おさめて曰はく


「どうやらお話はまとまったようでございますなあ。答えなどないと知りながら、その答えを探そうとする。然り、これぞ存在なりもうせば。あーはーはー、あーはーはー!」


 毒虫鼎談どくむしていだん、かくもむなしけれ

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毒虫鼎談 朽木桜斎 @Ohsai_Kuchiki

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