第3話 どこに行こうか話し合う男と女のいる風景
異世界転移装置という珍奇な機械は玉座の間にありました。
とても大きな広間の中央にぽつんと石の柱が置いてあります。
石に刻まれた注意書きを読んでみますと、
「全ての能力が千五百を超えている者だけが、この装置を起動できる」
と、書かれておりました。
魔王の孫娘コレットさんは私の手を取ってはしゃいでおります。
「私と勇者さんのステータスを合計すれば、千五百なんか余裕で越えるでしょ!」
「確かに」
私とコレットさんは二人同時に石の柱に触れます。
すると装置は瞬く間に光り輝きます。
とても美しいコバルトブルーの輝きでした。
「やったわ! とうとう動いた!」
ぴょんぴょん跳ねながら喜び叫ぶコレットさん。
私も興奮を隠せません。
新しい人生を踏み出せると聞けば、誰でもそうなるでしょう。
「ところで、何処へ行くのですか?」
「あ、ちょっと待ってね」
コレットさんは玉座の後ろから一冊の本を持ってきました。
異世界の歩き方。と題する黄色い表紙の本です。
「これを読むとね、とにかく地球に行け。地球しかないって書いてあるの。なにしろ地球は異世界慣れしてるからって」
「ほう」
突然やって来る来訪者にも平然と対応してくれるならありがたいことです。
「問題なのは、地球のどこに住むかってことなのよ。いろいろ候補があるんだけど、一つ一つ調べていきましょ」
「わかりました」
「まず米国ね。ここが地球で一番強い国で、米国を中心にすべてが回ってるから、とりあえずここにぶら下がっておけば問題ないって」
「それは素晴らしい」
「ただね。住んでる人達が全員一撃必殺の武器を持ってるから、何かの弾みで死んじゃうかもしれないから気をつけろってあるのよ」
「それは困りますね……」
転移して早々殺されちゃたまりません。
「そうなると次は欧州地帯が良いって。すっごくでかい大陸にいろんな国があって、とにかく飽きないんですって。景色も良いし、地球の文化は欧州から始まっているものも多いから、一つの国にとどまらず旅を続けるのも良いでしょうって」
「それは素晴らしい」
「ただね。基本的に自分たちの民族以外はクズだと思ってるから、ちょっとしたことで戦争になって、何かの弾みで死んじゃうかもしれないから気をつけろってあるのよ」
「それは困りますね……」
転移して早々戦争が起きちゃたまりません。
「他に何かありませんかね」
「中国とロシアって国があるらしいんだけど、ここはとにかくやめろって。理由は言えない、消されるからって」
「それは困りますね……」
転移して早々消されちゃたまりません。
「だったら日本がいいんじゃない? とにかく地球の中で一番治安が良いんだって」
「それは素晴らしい」
「しかも、とにかく異世界慣れしてるし、逆に日本から戦士を飛ばして他の異世界を救ったりしてるんだって、凄くない?」
「それは素晴らしい」
「しかもしかもインフラがしっかりしてるから、特に働かなくても道の上でなんとなく生きていけちゃうみたいよ、凄くない?」
「それは素晴らしい」
「ただね。他人に興味が無いわりに恨みを貯め込みやすいんだけど、他の国と比べて発散できる場所がないから、大地の奥底にヘイトが溜まっていて、突然ご近所さんが暴れ回ってナイフで刺してきて、何かの弾みで死んじゃうかもしれないから気をつけろって書いてあるのよ」
「それは困りますね……」
転移して早々ナイフで刺されちゃたまりません。
いろいろ候補は挙がりましたが、どの国も一長一短のようです。
「どうしよう決められない。勇者さん、どうする?」
「コレットさん、ここは日本でどうでしょう」
「なんで? 基本スケベしかいない国って書いてあるのに」
「米国は一撃必殺、欧州は戦争、中国とロシアはなんだか怖そう。それに比べて日本はナイフです。私たちの力なら何とか抵抗できそうじゃないですか」
コレットさんは目を丸くして私を見ました。
「勇者さんあったまいいねー」
「いえいえ、はっはっはっ」
若い娘さんに褒められると悪い気はしません。
「よしっ、日本に行こーっ!」
「ええ! 私たちの新たな人生が始まりますよ!」
こうして私、勇者と、魔王の孫娘は新たな世界へと旅立ったのであります。
注:この物語は作者の思い込みが全てです。
書いてあることを真に受けないでください。
勇者46歳 ー魔王が先に死んじゃった。やることないから日本に転生。失った青春を取り戻せ! はやしはかせ @hayashihakase
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