第42話
「さあ全てを終わりに致しましょう。エセル様、今楽にさせて差し上げましてよ」
そうして私は左手に
それを見たエセル様はとても恍惚とした笑みで以って私と剣を見つめておられます。
「ああ、早……くっ、一刻も早くそれを私の愛する貴女の手で以ってこの心臓を貫いて欲しい」
「はあ? 一体何を馬鹿な事を言っているのエセル!! 衛兵っ、衛兵はいないの!! ここに乱心者がいるわ!!」
ふ、それを一糸纏わぬ姿の貴女が言いますか。
一体どの口で、そして何故その様な事が仰られるのでしょう。
「一突きで貫いて差し上げますわ。私の愛するエセル様、もう貴方を苦しませはしません。そしてこれより先は何時も私と一緒でしてよ」
「ははは、真実ならばこれ程嬉しい事は……ない。わ、俺のこの身体は愛する貴女を裏切ってしまった。でも心はっ、心だけはエリザベス……永遠に愛しい貴女だけのもの――――っっ!?」
私は貴方の望み通りに心の臓へ剣を一突き致しました。
同時に愛する貴方の為に私の魔力でこの世で与えられるだろう最期の痛みを取り除けば……。
「愛、して、いる……リズ。わた、しのゆい……い――――」
「嬉し、い……私もエセル様、貴方を誰よりも、永遠にお慕いしておりますわ」
こと切れ、徐々に身体が弛緩していくエセル様を抱き締めれば、私はこれでよかったのだと思い至りました。
ええ、エセル、貴方の死に顔はとても美しくまた幸せそうなのですもの。
「嘘、嘘嘘嘘裾嘘嘘よ――――っっ!! え、せる? 何故、どうしてっ、そんな女の何処がっっ!! この人殺しっ、化け物!!」
「――――煩い黙れ」
無詠唱のまま私はこの国の空一面に無数の、それこそ数え切れないサンダーソードを雨の様に降らせました。
貴族も平民も関係なく、件の両公爵邸もしっかりと攻撃対象に入っておれば当然の事ながらこの王宮もです。
私の刃を避け切れる者がいるとすれば、それは本当に心根の真っ直ぐな者しかおりません。
故にたった今この国は滅びを迎えるのです。
何故なら私のサンダーバードは別名審判の刃と申しまして自分で言うのも妙なものですが、これこそ我が公爵家の血脈を恐れる支配者達が畏怖すべきもの。
そうこれこそ一度放たれれば執行者である私が死した後のこの大地……最早永遠に国としては成り立ちませんものね。
最初は穢れのない心を持った者達でこの地はゆっくりと形成されるでしょう。
ですが少しでも邪心を抱けばサンダーソードはその度に雨……いえ嵐の様にこの地へと降り注ぐのです。
永遠に……。
ですがもう私にはどうでもよい事。
それよりも今は最期の時間を貴方と――――。
私は魔法でボロボロとなった寝台を整えればやはり魔法でエセル、愛しい貴方を静かに横たえさせました。
本当に安らかな、少し幼さが垣間見られる死に顔です。
部屋の隅には先程迄散々喚いていただろうキャサリン様が幾つもの剣に貫かれれば既に絶命しております。
サンダーソードは業の深き者にはそれなりの数で貫くのです。
パチン
指を軽く鳴らせば床?
いいえこの城を覆いつくす様に地中より極太の茨がフルスピードですっぽりと囲む様に生い茂り始めます。
そう、私の愛しい貴方を晒しものにはしたくありませんもの。
これは私の唯一の我儘なのです。
愛する貴方を永遠に私のものとする為の……。
「御機嫌ようそしてさようなら……かしら」
私は完璧且つ優雅なカーテシーを愛する貴方へと捧げれば、私は前へとゆっくり歩を進めます。
これより私の向かう先はバルコニー。
私の作り出したサンダーソードでは己が身を貫く事は出来ません。
また私の血で美しい貴方を穢す事はしたくないのです。
だから……私は手摺の向こう側へと踊るように身を投げ出しました。
きっと地上へ着くまでに私の茨達によって我が身は貫き引き裂かれるでしょう。
多少痛みはありますがそれでも、この先できっとまた愛する貴方と再び出逢えますもの。
だから私にはこの痛みこそが甘美なものとなる。
Fin
御機嫌ようそしてさようなら ~王太子妃の選んだ結末 姫ゐな 雪乃 (Hinakiもしくは雪乃 @papiten
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