第2話ー邂逅
キマイラが召喚されて以来、パタリとあっち側からのお客さんはいなくなった。
しばらくテレビやネットがやかましかったが、すぐに鳴き止んだ。
騒ぐだけ騒ぐのが得意な連中だ特に何も考えて等ないんだろう
「なぁ、もう来ないのかなアイツら」
『そんなはずはないと思うがな』
「どうしてだ?」
『強いて言えば勘ってとこかの』
「嘘だろ、マジかよ」
『まだ、来なくなってから1週間ほどだろう?そう焦るなじきに騒ぎだすぞ』
「なぁ、そういや改めて聞くけどさ、なんで俺に取り憑いたんだ?」
『あんなボロボロのガキ、見ていられるか』
「俺あんま覚えてないんだよな、お前と出会ったときの事」
『神風神社だったかの、そこで出会ったことは覚えているか?』
「あ~、あったな!そんな神社、なんか祀ってた大事なモンが壊れたかなんかで俺が小さい時に無くなっちまったんだっけ」
『それ、ワシのせい』
「は!?」
『ワシのせいと言うと語弊があるかの、まぁ簡単に言えばそういうことなんだが』
「どういう事だ?」
『まぁ、そのうち教えてやるぞ』
俺は黒龍と出会ったときの事だけじゃない。
幼少の頃の記憶が曖昧だ、今住んでる家は親戚の持ち家かなんかを貸してくれてて
気のいい人なんだが、小さい時の頃の話をしたことがない。
両親は顔も名前も思い出せないし、死んでるのか生きてるのかすらも知らない。
『おい、お待ちかねだぞ』
「出たか!?」
『コイツは強い、マズイぞ』
何かを察し、見えなくても表情が分かってしまう程に曇った声でつぶやく
「だからってここで待ってたっていつか来るだろ!?」
『しかし・・・』
「うるせぇ!行くぞ!」
真っ黒の翼を広げ飛び立つ
切り立つ崖に囲まれた大地に一つの大柄な影
『アイツだ』
「あれは・・・なんだ?」
「ほう・・・そちらから出向いて来てくれたか・・・流石は黒龍、鼻が利くな」
こちらにまっすぐ視線を向けながら嘲笑うように話しているヤツは
黒い鎧を身に着けた騎士のような風貌をしていた。
俺より二回りも三回りも大きい背丈で、一歩後ろに退いてしまうほどの威圧感だった。
「なんだお前知り合いなのか?」
『昔ワシが封印したはずのヤツが・・・』
「封印だと?」
「ハハハハ!いつの話をしているんだ?そろそろボケたか??」
龍の声は聞こえないのにも関わらず、一つの単語で察したかのように笑った。
しかしそれは喜びという感情よりも蔑み憐れむような高笑いだ。
「なんなんだアイツ!黒龍!なんか知ってるのか!?」
『ちぃと昔話に花が咲きすぎたな、また縛り上げればいいものよ』
「独り言はその程度にしておくんだな!!!」
猛烈な勢いでこちらに向かって走ってくる
『ヤツは強い、それだけ教えてやる』
「ったく!!!詳しいことは後で聞かせろよ!!!」
________略式・鎧装
間髪入れずに叩き込まれた剣、少し交えただけで分かる重みと強さ
それでもなんとかいなし、再びヤツが口を開く。
「その青っちょろいガキのペットに成り下がって、あんなおままごとの様な戦いをしているのか?」
笑いながら問いかけてくる
「てめぇが昔に黒龍と何があったかは知らねぇが!兎に角倒す!!」
「フハハハハ!!!その様子だとあの災厄の事も聞かされていないようだな!」
「な、なに???」
『ボロスのヤツ・・・余計なことを・・・!』
「災厄ってなんだ!!何があったんだ!!!」
俺の質問を遮り、再び剣を構え突っ込んでくる
「哀れだなぁ、お前も、何も知らずに従順戦う丁度いい阿呆が転がっているのは黒龍にとっては幸運とも言えるがな!!!」
「うるせぇ!お前はここで叩き切る!!!!」
「肆式・
確実に当たった
が、しかし
「そんなものか?」
土煙にシルエットが浮かぶ
風に煽られ再び姿を現したが、そこには傷一つないヤツの姿
「どこまでも青いガキだ、ぬるすぎるぞ」
「銘烙掠・刃牢術・陸の
呟くと同時に地面を蹴り上げ空高く飛び上がった
剣を掲げ、位置エネルギーを最大限利用し、一瞬で地面まで切り下す。
その衝撃は俺の右肩をかすめ、地面を割り、後ろの崖を真っ二つに切り裂いた。
端から切る気などない力の差を思い知らせるだけの一撃にしては
十分すぎた。
「こ、これは・・・」
『相変わらずの馬鹿力だ・・・』
「これでもまだ、俺が切れると言えるか??」
嘲るヤツの目は、直接的に言葉に表さなくても伝わる圧倒的な殺意を物語っていた
その殺意は俺の背中をなぞり、耳元でこうささやいた
___________________【殺ス】
『もう一度封印するしかない』
「む・・・無理だ・・・」
『どうしたさっきの威勢は』
「俺に・・・ヤツは・・・・」
圧倒的な力を前に足を動かすことはおろかヤツを直視することすらできなくなっていた。
恐怖という感情が体を蝕んでいくのがひしひしと伝わっていく
しかし、それに追い打ちをかけるが如く切りかかってくる。
『ボーっとしているヤツがあるか!!!ここでお前が切られては元も子もなくなるんだぞ!!』
「俺は・・・コイツに勝てない・・・」
『何を考えている!早くしろ!』
「俺は・・・弱い・・・」
『いいから動くんだ!!』
黒龍が今までにない怒号をあげ、俺は少しはっとする
しかし、正面から腹に一撃を食らい動きが全く追いつかないまま追い打ちをかけ続けられる。
一撃一撃は致命傷を避け、いたぶり面白がっているのが分かった。
それでも抵抗しながらヤツの手加減している剣を
食らい、いなし、かわし、防ぎ、また食らうことを続けた。
剣を交え続けるなかで一つの疑問が浮かぶ
_____俺は、どうして闘っているんだ・・・?____
ヤツの言葉が頭の中でめぐる
______________________________________
哀れだなぁ、お前も、何も知らずに従順戦う丁度いい阿呆が転がっているのは黒龍にとっては幸運とも言えるがな!!!
______________________________________
「どうした!そんなものか!黒龍よ!落ちぶれたものだ!!」
『マズイ・・・このままでは・・・』
止まらない連打、成す術も技を繰り出す隙も与えられないまま
ただただいたぶり、ヤツの口角は緩み続ける
「張り合いのないガキだ、お前のような奴の首を切ったところで剣が泣くだけだ」
手を止め、飽きたようにこちらを睨みつける
「黒龍・・・俺・・・なんで闘ってるのかな・・・」
『ワシに聞いてどうする!剣を握っているのはお前自身だ!闘う理由などを闘いの中に求めるな!!貴様が剣を放棄すればいつでも闘いなど辞められる!お前の意思で振るっているものを他人に問いかけるな!!!』
黒龍の言葉にはっとした
俺が闘う理由は、俺が決めていいのか
「もういい、聞き飽きた、このまま散れ」
「俺は!!!!!!!!」
剣を構えようとするヤツを遮るように声を出す。
俺の中で何か吹っ切れたような気がした。
「俺は、弱い、だけど黒龍がいるからこうして闘ってる、どうして俺が闘わなくちゃならないのか、何が起こっているのかは聞かされていないし知らない、でも知らなくていいんだ、いつか知るときが来る、そう信じて闘ってる、それ以上に俺は共に闘う仲間を手に入れたと同時に、守るべき存在も手に入れたんだ、だからそれを守る、俺が闘う理由はそこにある!!!!!!!」
「そうか・・・いい目になったなァ・・・やっと殺し甲斐のあるツラになりやがった」
『フン・・・ワシを守るべき存在か・・・ナメられたもんだな・・・』
心からの言葉だった、あふれ出して止まらない、これが俺の闘う理由。
やっと見つけ出した気がする。
なんとなく取り憑かれ、なんとなく剣を握り、なんとなく闘っていた。
そこに「なぜ?」という感情は介在していなかった。
けれど、死という恐怖に蝕まれ何か明確な理由が欲しくなった
自分が死ななくちゃならない理由を。
圧倒的な力の差がこんなにはっきりくっきりと言葉にしてくれた。
なぜだか、コイツと闘えてよかったとすら思えた。
「弐拾伍式
一瞬でヤツの背後に回り、最短の剣速を繰り出す
しかし、あっさりと受け止められる
「面白い、銘烙掠・刃牢術・捌の牢」
とてつもなく重い一撃、やはり今までの敵とは段違いの強さ
それでも負けじと踏ん張り、刃を受け止める
「参拾弐式!
「銘烙掠・刃牢術・拾壱の牢」
攻防が続く、力の差は歴然、それがわかっていても
ここで背中を向けることがいかに非道かは、考えなくてもわかっていた。
「銘烙掠・刃牢術・弐拾弐の牢」
特別な技などではない、単純な一振りが段階的に強化され続けるこの剣術は
俺の小手先だけの修行では通用するようなものじゃなかった。
互いが互いの技を振るい合いながらどれくらい経っただろうか
高く昇っていた日は、もはや傾き隠れてしまいそうだった。
そして俺は、ついに倒れた。
「フフ・・・ハハハハハハハ!!!!次で終いにしよう、実にしぶとく面白かったぞ、最後は本気の一撃をくれてやる、光栄に思え」
「銘烙掠・刃牢術・四拾五の牢」
ヤツの言葉通りに、俺自身も終末を確信する。
けれど少しだけ、最後の相手がコイツでよかったと思った。
どうにかして黒龍に面倒をかけさせずに俺だけ死ぬ方法を考えたけど
どうにも思いつかなかった。
薄暗くなりかけた空、最後くらい笑って死にたかったけど
まぁ、これも悪くはないのかな
意識が遠のき、視界が霞む
黒龍の声すらもうまともに聞き取れない
「ごめん・・・・黒龍・・・」
ヤツが剣を振るうのが見えた
「もう終いか?小僧」
閃光の如く現れた新たなる声。
そしてその声に遠ざかりかけた俺の意識は引き戻される。
俺の身長くらいある金棒を片手で握り、一振りでヤツの一撃を弾く。
『何!?』
黒龍すらも衝撃を受けていた。
「だ、誰だ・・・?」
ぼんやりとした視界、はっきりと声は聞こえなかったが
血と汗が滲む目を必死でこすり正体を確かめようとする。
そこには片目に眼帯をした筋骨隆々の大男。
「はぁ~あ・・・結局いつの世も闘いか・・・」
『楽しいだろ!?俺は悪くないぜ!な!?黒龍!!』
目の前には一人の男しかいないはずなのに何故か2つの声が聞こえる
そして黒龍の事を知っている。
これは、まさか・・・
『電龍、お前まだこっち側にいたとはな、しぶとい奴ぞ』
『黒龍こそ!まぁ、俺はアレでくたばる奴とは思ってなかったけどな!』
「お、おい・・・まさか・・・コイツも・・・」
『ああ、驚きだが、龍が取り憑いている』
「全く、あんだけあの時強かった黒龍が今となってはこんなボロ雑巾みたいなガキのお守りか?」
『お前は・・・!!なぜ生きている!?』
改めてこちらを振り返り、取り憑いている人間を確認した時。
とても驚いているようだった。
「話は後だ、とりあえずボロスからどうにかしないとな」
『あぁ・・・すまない・・・まさか、お前に助けられるとはな・・・』
「仮にも年食ってる龍なんだ、人なんざに謝ってどうする」
捨て台詞を吐くかのように金棒を構えなおし、走り出す
「お、お前は!!」
「ボロス、久しぶりだなァ!!!」
開幕の言葉と同時に互いの得物を交える。
電龍と呼ばれる彼は、新たな龍使い。
そしてそれは、俺があれだけ苦戦していたボロスの一撃を
軽々しく弾き、今、闘っている。
「やはりあっち側にお前がいないという事はそういう事だったんだな」
「俺はあっちもこっちもそんなに興味ねぇよ、めんどくせぇしな」
「ふん・・・お前も黒龍もろとも切ってやる!!!!」
「出来るといいな、それ」
「
間髪入れずに技を振る
金棒を振ると稲光が巻き起こり、ヤツの身体に鉄杭が突き刺さる
「な、なに!?」
「お前はもう詰んでるよ、詰将棋で言うところの王手だ」
『王手は詰将棋以外でも使うけどな!別に!』
「こまけぇ事はいいんだよ」
_______________
ぽつりと小さな声でつぶやく
微小な電撃がヤツを襲い、それが鉄杭を駆け巡る
致命的な一撃と呼べる程のダメージは負わせていないようだった
「この程度か?」
ボロスもにやりと笑い、勝利を確信する。
「ほらかかってきな」
「こ・・・これは・・・!?」
『どうしたーー???』
電龍が笑いながら問いかける
何が起こってるのか理解しがたかったが、その謎はすぐに解けた。
「う・・・うまく体が・・・」
声を出すと同時にボロスは倒れこむ。
「なぜだ!?なぜ左手を動かそうとすると足が動く!?」
「神経の電気信号にちょちょいと別の信号を流してやってるだけさ」
『楽勝だったね!』
「まぁ、不意打ちっつーか、あんまり気持ちよくはないけどな」
頭を搔きながらダルそうに空を見る
「アイツ強すぎないか・・・??」
『まさかあの男に電龍が取り憑いて生きながらえていたとはな・・・』
衝撃的な術
愕然としていたのは俺だけではなく黒龍もまた同じだった
まさしく強すぎる、最強という言葉が似合う背中を見せられた
「貴様ァあああああ!!!!」
這ったまま声を荒げる
「騒がしい奴だ」
その時だった
ボロスの後ろ側に突如として扉が現れた。
「次は・・・!!!無いと思え・・・!!!!」
「無いと思いてぇな俺も」
耳をほじりながら面倒くさそうに立ち尽くす。
「逃がすか!!!」
逃げられることを悟った俺は限界まで声を振り絞り、ボロボロの身体を引きずりながら走る。
「待て!!!」
「な、なんでだ!あのままだと逃げられ・・・」
「もう遅い、歯が立たなかったひよっこは大人しく帰ることだな」
確かに手遅れだった
そこにヤツの姿も扉も消えてなくなっていた
「お前、俺がヤツと闘っているとこ見てたのか!?」
「あぁ、見てたさ」
「じゃあ、なんですぐに来なかった!?」
「来てどうする?どうして俺がお前を助けなくちゃならない」
「俺を助けるためじゃない!!!ヤツを倒すためだ!!!」
「だとしてもどうしてヤツを倒さなくちゃならない?」
「お前!何言って・・・」
「1500年ぶりにまともに戦闘して疲れたんだ、もう喚くのはよしてくれ」
面倒くさそうに食い気味に言い返され、ムカついた。
俺はすぐに言い返してやろうと、言われた言葉を反復して考えた。
鈍くなってる頭を必死に巡らせ
やっと気付く_______________
「せ、1500年!???!?」
地の獄、天の極 あんのうん @Unknown00-00
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