第18話 完全超悪ジャスティス・カケル


「──止めろ! ここで止めるんだ!」

「無茶だ! バケモノすぎる! 勝てっこない!」

「あんなの……人間じゃねえ……! 人間の形をした何かだ!」

「うおおおおおおお! バケモノめ! 死ねぇぇぇぇぇ!!」



 黒服が銃口をこちらに向けてくる。

 だめだ。だめだめ。

 遅すぎる。そんなのじゃ、俺に傷ひとつつけられない。

 俺は黒服と同じように、手を銃の形にし、人差し指をの先を黒服に向けた。


 ──バチィ!!

 静電気の音を何倍にも増幅したような音が鳴り、黒服の上半身が吹き飛んだ。

 残った下半身は、まるで支えを失った脚立のように、力を失い、ぱたりと倒れた。


 家を出た俺は、再びここ、悪党どもの巣穴・・・・・・・へとやってきていた。

 相も変わらず、雅な街並みが俺の神経を逆なでしてくる。

 俺の登場により、この町にいた金持ち連中どもは全員避難し、残っているのはここを警備しているやつらと、黒服どものみ。さっきからひとりひとり捕まえて、浜田幸三の居場所を訊いているのに、答えるやつはゼロ。全く。見上げた忠誠心だ。反吐が出る。

 俺は、さきほど上半身が吹き飛んで死んだヤツの隣で、臭い糞尿を漏らしている黒服の襟元を掴んで引っ張り上げた。



「答えないと殺す。答えても殺す。一度だけ訊く。浜田幸三はどこだ?」


「し、しりません! ほほほ、ほんとうで──ばばあばばばばばばばばば……!」



 俺の手からほとばしる電流が、黒服の全身を焼く。男はまるで、焼き肉時、取り忘れた肉のように真っ黒になって息絶えた。



「こいつも口を割らなかったか……」



 それにしてもひどいやつじゃないか。浜田幸三という男も。

 部下が、もうすでに数えきれないほど黒焦げにされているというのに、まだ名乗り出ないとは。これはもう、ここにいる人間を残らず全員殺したほうが早いか?



「──おら、おまえだろ! さっさといけ!」

「で、でも……!」

「こっちは何人もおまえのせいで死んでんだ! せめておまえが死ね!」

「ひ、ひぃ!?」



 何かもめるような声が聞こえてくる。見ると、そこには黒服と浜田が揉みくちゃになって、何かもめていた。黒服は俺に気が付くと、俺の期限を取るようにして、浜田を嫌がる浜田を無理やり押さえつけながら、俺に差し出してきた。



「へ、へへへ……こ、こいつを探してたんでしょ? ジャスティス・カケルさん……だ、だから、俺の事は、どうか、その……見逃してくれます……よね?」


「ああ。考えてやるよ」



 俺は人差し指を黒服の頭に照準を合わせると、そのまま頭を吹っ飛ばした。



「ひ、ひぃぃ!?」



 黒服の支えを失った浜田は、汚い叫び声を上げながら、尻もちをついた。

 俺は浜田の前まで歩いていくと、その場にしゃがみ込んで、浜田の顔を覗き込んだ。

 完全に怯えきったような顔をしている。あの時、俺たち・・・を追い詰めたときのような、〝裏社会のボス〟のような雰囲気は、この男からは微塵も感じなかった。それどころか、一気に何十歳も老けたような気がする。



「よお、探したぜ、〝ハマゾー〟さんよ」


「ひ、ひぃぃぃ!! お、おまえは……あのときのガキ……いや、じゃ、ジャスティス・カケル!?」


ジャスティス・・・・・・カケル・・・だあ?」


「す、すみません! すみません! ジャスティス・カケル……様!」


「わかり易いようにご機嫌取りしてきやがって。何がだよ。逆にバカにされてるとしか思わねえよ」


「ご、ごめんなさい! ゆ、許してください! ころ、ころころころろ……ころさないで……!」


「おいおい、てめぇの得意技は命乞いじゃなくてごますりだろうが。何やってんだ」


「は、はい? な、なに……やってるって……?」


「ごまをするんだろ? ああ!?」


「ひ、ひえええええええええええええ! す、すみません! 許して! 許してください! 殺さないで! もう、こんなことしませんから! 悪いことも何も、子どもも売りません!」


「それ当たり前のことだよなあ!? 親に教わらなかったのか? 人を売り買いしてはいけませんってよお!」


「す、すみませんすみません! ごめんなさい! ……あ、そうだ! あの、あの、あなた様が、連れ出そうとしていた、あの女! あの女をタダでお渡しするので!」


「な……!? か、桂のやつ、生きてんのか!?」


「え? あ、い、生きてます! はい! はい! 生きてますとも! 殺すはずないじゃないですか! そんな!」


「……嘘じゃねえんだよな?」



 そんなはずはない。たしかに俺はあの時、感情をシャットアウトしていたけど、たしかにあいつは、桂は俺の腕の中で死んでいた。

期に及んでこいつ、俺を騙そうとしてやがるのか?

いますぐぶち殺してやりたいが、これはこれで見物だ。

こいつがどこまでやって来るか、遊んでやる。



「はい! 誓って! ついてきてください! ごご、ご案内いたしますので!」


「……いや、連れてこい」


「……へ?」


「ここに連れてこいって言ってんだ」


「あ……いや……でも、本人も、ひどく体力を消耗していて……歩けないというか、なんというか……」


「じゃあ丁重に運んで来い」


「そ、そんな……!」


「できないってのか? じゃあ、さっきのは嘘って事なんだよな?」


「い、いえ! めめ、滅相もない! いますぐ!」



 そう言ってゴキブリのように駆け出した浜田の手を俺が掴む。



「おまえはここにいろ」


「……へ?」


「部下に連れてこさせろ」


「あの……!」


「その際、本当に生きていたら、おまえを解放してやる。ただ、嘘だった場合、おまえをこの世で一番残酷に殺してやる」


「えと、えっと……その、あの……」


「どうだ? やるか?」


「許してください!!」



 浜田はそう言うと、縋るように俺の足にへばりついてきた。



「申し訳ありません! う、嘘です! へへへ、嘘なんです! あの女はすでに死んでいます! でも、撃ったのは儂じゃないんです!」


「でも命令したのはおまえだろうが」


「そ、そうですが、でも、でも……!」


「……もういい。何も言うな」


「じゃ、じゃあ許して……!」


「死ね」



 ──こうして、俺の正義は執行された。

 浜田幸三の働いてきた悪事は、浜田幸三の死とともに、全国へと拡散され、ジャスティス・カケルもこの件を機に、世に広く知られることになった。


 そして、そんなある日、悪を成そうとする俺に、ユナが声をかけてきた。



「ね、ねえ、カケルちゃん、なんか最近ちょっと、怖くない?」


「怖い? 俺が?」


「う、うん。その……前にも増して、話しかけづらくなったかな、なんて……あ、あはは~……そ、そんなわけ、ないのにねぇ~……」


「はは。当たり前だろ、ユナ。俺はいつでもせいぎ・・・の味方だよ」


「だ、だよねぇ……あの、それで、今日もどこか行くのぉ?」


「ああ。ちょっと野暮用でな」


「そ、そうなんだ……気を付けてねぇ……」


「わかってる」


「──あ、あの! カケルちゃん!」


「……なんだ、ユナ?」


「カケルちゃんとその……ジャスティス・カケルって、もう友達……じゃないんだよね……?」


「──ぷ。おいおい、なんて事訊いてくるんだよ」


「え、えへへへ……」


「俺があんな大量殺人犯・・・・・と友達なわけがないだろ? いくら正義のためとはいえ、悪人を殺しまくるのはやりすぎだよ。あんなやつ、もうとっくの昔に絶交したってば。早く捕まってくれないかなぁ……」


「だ、だよねぇ……、ごめんね、変な事訊いちゃってぇ……」


「ユナが変なのは、いつものことだろ?」


「あっ! ひっどぉ~い!」


「わるいわるい。帰り際になにか買ってやるから」


「おお~! やったねぇ、じゃあ私、おだんごがいいなぁ。三色の」


「わかったわかった。楽しみに待ってろ」


「うふふ。……じゃあ、いってらっしゃい、カケルちゃん」


「ああ。いってくるよ。ユナ」

────────

ここまで読んで下さり、ありがとうございました。

最後らへんすこし駆け足気味ですみませんっ!(汗)

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完全超悪~巨悪を滅ぼすには俺が超悪になるしかない 水無土豆 @manji

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