8
死んだはずだ。
なのに、意識がある。
これってどういうことなんだろうね。
僕は、チンピラが乗るアルファードに轢かれた上に、牛丼大盛2つ分が頭にぶちまけられて死んだはず。
_____
視界は、電源を消したように暗い。
ほのかに暖かい気がする。
けれど、気のせいかもしれない。
不快ではない。
目をあけて周りをみたいけど、どうも自分に眼球がないようなのだ。だから状況がわからない。
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「もし、聞こえますか。」
男の声がした。
男に返事がしたい、けれども不可能だ。
口もないみたい。
「返事はできないと思うけど、心配しないでくださいね。今、君の意識に直接かたりかけています。これは、私たち仲介者にしかできない高等技術ですけどね。ふふ。」
「君の意識は、現在輸送中です。私、トクタケ・5シマが責任を持って君のフェニクストーンをバンクまで送り届けます。あと13時間ほどで到着しますが、それまでコーヒーでも飲みながらゆっくりしててくださいね。」
口がない僕にコーヒーを勧めるのはこの人の鉄板ネタなのかな。
このトクタケという男(男というのも定かではない、声で判断しているだけだからね)の話した内容はどれも意味不明だ。
僕はどこかに運ばれているらしいけど、自分の移動を体感できないし、信用できるのかわからないよね。
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何か僕の身に大変なことが起きているようだった。
車に轢かれた時点で大変なんだろうけど、それ以上にさ。
でもこういう時って、僕は不思議とドキドキしないんだ。
役所の手続きを待っているかのように、冷静なもん。
つい先月かな、夜8時くらいにキムと一緒にタバコを買いにいった時、ビニール傘をくるくる回すタンクトップおじさんに尾行されたんだ。
理由は僕が彼とすれ違いざまに、彼の傘をくるくる回す様を真似っこしたからなんだけど、とにかくすごい睨みながらずっと後ろをつけられた。
キムはビビっちゃって近くにあった学習塾に逃げ込んだ。
「おまわりを呼んでくれませんかー!」
ってね。
でも僕はタンクトップおじさんと向き合って
「なにか用?」
って聞いたんだ。
おじさんは
「なんでもねぇよ!」
ってイキんでいたけど、僕は全くドキドキしなかったんだ。マジな話だよ。
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とにかく、僕はバンクとやらに運ばれているらしい。
けど、なぜ?どうやって?
僕の体はどこへ行ってしまったんだろう。
というか、待てよ、僕は救急車で運ばれているだけなんじゃないだろうか。
さっきは、救急隊員の悪ふざけが聞こえただけで、僕はいたって普通の救急車で普通の西日暮里付近の病院に運ばれているだけなのかもしれない。
バンクではなくてね。
だって普通、そうでしょう?
_____
1時間くらい経ったと思う。
トクタケが何も語りかけてこないので、状況に変化があるのかないのか、わからない。
普通の病院説が段々と薄れて、謎のバンク説が濃厚になってきた。
この狭い日本で、1時間以上病院に到着せず何も起こらないなんてあり得ない、バンク説以上にね。
僕は自分が思っている以上に日本を信用していたみたいだ。
_____
トクタケは移動が13時間と言っていた、ならばあと12時間はこのままかもしれない。
12時間後、僕はどうなっているのだろうか。
やっぱり目を覚ましたらそこは病院でした、みたいなオチだったりして。
でも、本当にバンクとやらで目を覚ますことになったら僕がどうすればいいのかな?
相手は悪なのだろうか?正義なのだろうか?
目的は?
_____
到着後、僕の体は動くのだろうか。
今の状況から考えるとあまり期待できないな。
でも口だけなら?もしかしたらしゃべれるかもしれない。例え喋れなくても、トクタケとなんらかの意思疎通はできるかもしれない。
なら、一言目、なんという?
あれ、意識が・くな・・きた。眠いわけ・・ないが、意識・モヤがか・・なん・い・・う?・・なん・・て・・・い・・う・・・・?
第一部 完
・・・つづく
【第一部】ディストピアをディストピアと呼ぶこの世界は、ディストピアではないのかな。 コンノ・ユカル @konnoyukaru
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