頭ノ饅土

安良巻祐介

 肘をついて、指先で柔らかい饅土ぬたつちを捏ねている。

 父、母、祖母、祖父、同居している何かの獣。見覚えのある顔が、次々出来てゆく。

 かなり有名な療法らしい。

 子どもまで作り終えて、ふうと一息つく。

 己の顔を触ると、饅土のように柔らかくのっぺりとして何もない。

 またか。

 急激に、捏ね終えたひとびとの顔が、よそよそしくなったように思われた。……


 見知らぬ家族の顔はもう百世帯ほど出来て、卓上に山となっているが、私がどこの誰だか一向にわからないから、この療法はまだまだ終わらないのだろう。

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頭ノ饅土 安良巻祐介 @aramaki88

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