第31話

 『壺まつり』は過去最高の盛り上がりを見せて終わった。

 新企画『ダメ壺壊しゲーム』が特に好評で、来訪客たちはみな日頃のストレス解消するように、壺を壊しまくっていた。


「うわぁ、この壺、ちょっと叩いただけでヒビが入るよ!

 うちで普段使ってるポトポの壺とは大違いだよ!」


「本当にダメ壺だな! こりゃ完全に失敗作じゃないか!

 普通の瀬戸物屋なら失敗作も店に並べて売っちまうけど、さすがはポトポは壺の街といわれるだけあるな!

 ダメな壺は許さないその精神が気に入った!」


 このゲームは計らずとも、マルモーケの壺の質の悪さと、ポトポの壺の質の高さを知らしめたようだ。


 そしてこのゲームのおかげで、これまで街を支配していたマルモーケの壺はすべて破壊され、破片は集められて土として再生。

 すべてがポトポの壺として生まれ変わった。


 街にはびこっていたマルモーケ商店はすべて打ち壊されて廃墟となり、マルモーケは逃げだした。

 諸悪の根源がいなくなったことにより、ポトポは以前のような『高品質な壺を産出する街』に戻る。


 俺たちは街の人たちみんなに感謝されて、まるで勇者になったような気分だった。


 この街ではかなり長いこと足止めを食ってしまったが、それだけの甲斐があったというものだ。

 そして、俺たちはいよいよ街を出ることにした。


 朝、宿屋を出ると、入り口に意外な人物が立っていた。

 俺を見るなり「うぇーい」とハイタッチを求めてきたのは、勇者ハーチャンだった。


 俺がハイタッチを無視すると、ハーチャンは急に緊張した面持ちとなる。


「あっ……あれぇ、オッサンも壺まつりに来てたんだ!

 すげえグーゼンじゃん! これも何かの縁だからさ、俺といっしょに……」


 俺は「断る」とだけ告げて、さっさと歩き出す。

 するとハーチャンは、コレスコとシャイネを押しのけるようにして俺のあとについてきた。


「おいおい、この俺がまた荷物持ちにしてやろうって言ってんだよ!?

 そんなノリが悪いんじゃ、この話はなかったことに……なーんてウソ!

 オッサンも俺のパーティに入りたいんしょ? 以前みたいにうぇいうぇいやろうぜ!」


「断る」


「ハァ? 何言ってんのもうオッサン。

 オッサンを拾ってくれるパーティなんて、どこにもないんだから……」


「断る」


「そーかよ! せっかくこの俺が情けをかけてやったってのに……。

 あとから戻ってきて土下座しても遅ぇからな!」


 俺の背後でワンパターンな捨て台詞を吐くハーチャン。

 入れかわるようにして、俺の前に勇者ペロドスが現れる。


「やあオッサン、奇遇だねぇ、こんなところで会うなんて。

 ハハハ、僕もすっかり落ちぶれちゃってさ、オッサンと同じ変質者さ。

 もちろんそれは誤解なんだけど、僕はオッサンもそうなんじゃないかって思うようになったんだ。

 どうだい? 僕といっしょに活躍して、変質者の汚名を晴らそうじゃないか」


「断る」


「ハハハ、むかし僕がしたことをまだ根に持っているのかい?

 もっさりとした過去のことばかりこだわってると、子供たちに嫌われちゃうよ?

 子供たちに好かれるには、ツルツルペタペタの輝かしい未来を見つめていなくちゃ!

 僕といっしょにその未来が見ようじゃないか! ね!」


「断る」


「……チッ! このクソオヤジ……!

 この僕がこれほどまでに歩み寄っているのに……!

 覚えてろよ、次に会ったときには一生消えない変質者の烙印を押してやるからな!

 ……あっ、その前にシャイネたん、サインください!」


「あの、わたしサインはもっていないんです、ごめんなさい」


「そうなの? じゃあ今はいてるパン……じゃなかった、今はいている靴下を記念に貰えないかな?

 変な意味じゃなくて、小学生の嗜好調査のために……(ガンッ!)はぶうっ!?」


「キモいんだよ! シャイネから離れるし!」


「このクソクソビッチ! お前も覚えてろよっ!」


 ギャーギャー騒ぎながら俺たちの前を離れていくペロドス。

 次に来たのはシュパリエだった。


「やっぱりここにいたのかオッサン。

 僕はあのあと『聖なる山』に巣食うモンスターたちを根絶させてね。村の聖女たちにとても感謝されたよ。

 ところであの村でモンスターと戦ってるときにオッサンの太刀筋を見させてもらったよ。

 荒削りだけど、なかなか才能がある。

 そこでだ、この僕の弟子として剣の修行をしてみる気はないかい? オッサンならきっと……」


「断る」


「そう言わずに、いま入会すれば、特別にこの聖剣をあげよう!」


 シュパリエはしつこいチラシ配りのように、剣を押しつけてくる。

 俺は手渡された剣を抜いて、刀身をあらためてみた。


「どうだ、これは僕の家に代々伝わる聖剣なんだ!

 決して折れることはなく、ひと太刀でモンスターの軍前を……(パキーン!)ぎゃあああっ!?」


 素手でへし折った剣を、俺はそのへんに放り捨てる。


「そっ、そんな!? 聖剣が、素手でっ!?」


 シュパリエは半泣きで退場していった。


 街の出口にさしかかると、後ろから馬車が走ってきたので横によける。

 それは牢馬車で、中にはシャランガンがいた。


 シャランガンは俺に気付くなり、鉄格子の向こうからめいっぱい手を伸ばしてくる。


「おおっ、オッサン! 俺が悪かった!

 まさか俺の力がオッサンから与えられていたものなんて知らなかったんだ!

 反省してるから、助けてくれ!

 俺はチンピラたちから壺を壊した罪をなすりつけられて、大変なことになってるんだ!

 この街のヒーローであるオッサンの一言があれば、俺は助かる見込みがあるんだ!

 頼むっ! 俺はこのままじゃ、勇者の地位を剥奪されちまうんだっ!」


「断る」


「トーゼンんっしょ。それになすりつけられたって言ってるけど、アンタが指示したんでしょーが」


 コレスコの正論に、シャランガンは狂ったように絶叫、そのまま運び去られていった。

 やれやれ、これで全部かな? と思っていたら、


「……オッサーンッ……」


 街の外から、俺を呼ぶ声がする。

 見やると、遥か遠くからボロボロのホームレスのような男が爆走してきていた。


 それは、勇者ストローであった。

 まさかマジハリからここまで、馬車にも乗らずに走ってきたんだろうか。


「……オッサーンッ……」


 そして、街のほうからも呼び声が。

 振り返ると、さっき振った勇者たちが、先を争うように激走してきていた。


「オッサンオッサンオッサン……オッサァァァァァァァァーーーーーーーーーーーンッ!!

 オッサンのスキル、『神ゲー』をまた、僕におくれよぉぉぉぉぉーーーーーーーーーーっ!!」


「オッサン、俺が悪かったぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁーーーーーーーーーーーっ!!

 俺はオッサンなしじゃなにもできやしねえんだ! だから、俺のところに戻ってきてくれぇーーーーーっ!!」


「オッサン、僕には幼女と同じくらい、オッサンが必要なんだ!

 オッサンの『神ゲー』の力があれば、僕はまた返り咲くことができる!

 だから戻ってきて、戻ってきてぇぇぇぇぇぇぇぇぇーーーーーーーーーーーーーーっ!!」


「オッサン! オッサンの『神ゲー』のスキルがないと、僕の剣技は全く役に立たないんだ!」

 さっきは弟子にしてやるなんて言ってゴメン! むしろ僕の師匠になって、僕の面倒を見てぇ!

 オッサンオッサン、オッサァァァァァァァァーーーーーーーーーーーンッ!!


 全方位から迫り来るオッサンコール。

 俺はたまらなくなって、近くに停めてあった俺の馬車の御者席に飛び乗った。


 ヒロインコンビたちも乗り込んでから、勢いよく馬車を走らせる。

 勇者たちは前に回り込んで通せんぼしていたが、容赦なく轢き飛ばした。


「「「「ぎゃぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁーーーーーーーーーーーーーーーーーーっ!?!?」」」」


 まとめて街の片隅にあったゴミ溜めにダストシュート。

 そのまま颯爽と街を飛び出すと、肩に乗っていたテュリスが導くように、大空へと飛び上がった。


「さぁーて、これからもガンガン行くでぇ!

 なんたって、旦那はようやくのぼりはじめたばかりなんやからな!

 この果てしなく遠い、男……やなかった、勇者坂をな!」

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はずれスキル『神ゲー』のせいで追放されたオッサン、覚醒してJK魔女と小学生聖女に溺愛される人生に 追放した勇者パーティたちの人生が『クソゲー』になって、お願いだから元に戻してくれと土下座されています 佐藤謙羊 @Humble_Sheep

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