這いずり寄る恐怖

「虫」という語から類想される不気味さを、「床(視点の低さ)」や「臭気」といった表現を用いることで、巧みに際立たせていると感じた。薄い皮膜に覆われてはいるが、確かに存在する恐怖がある。

題名の付け方も秀逸だと思う。そこには薄気味の悪い何かが蠢いていることは分かっていながら、ついつい手を伸ばしてページを捲ってしまう魅力がある。「蠱惑的」という言葉を思い出した。

さらりと肌触り(?)が良い文章で書かれている分、指の先でなぞっただけでも、ゾワリと寒気の走る印象を感じさせる。結末が薄靄に包まれているところが、却って想像を掻き立てるようである。

正体不明の恐怖が「虫」にはある。確かに目の端で捉えているが、その正体に関してはよく分からない、という影を追うような恐怖を感じたい方には、是非とも読んで欲しい作品だ。それは確かに地面や床を這いずり回っている。まるで、産まれて間もない赤ん坊のようにーー。