雨の乾かない観光地
ohne Warum|
第1話
水中の屋敷に入ると、暗がりを照らす温かいランプの置かれた小テーブル横のソファには、眠たそうな主人の落ち着いた姿。カーペットを歩く感覚は、この暗い部屋の魔法の使えそうな雰囲気には持ってこい。ソファの隣に置かれた水槽には、普段は目立たぬ魚たちの脇役が、とぼけた姿で興味深げにこちらを観察する。灰色の巨大な蝸牛に気に入られ、避けようとしてもゴリゴリと徐々に噛み始められる左肘の痛みに驚く。放って置いたら肘から先なんて無くなるのも直ぐなので、なかなか離れないそいつをそのまま連れて外へ。
この日を振り返り、彼女の一人で歌って過ごした、寂れた一本道を見下ろす空に視界を囚われながら、着々と散歩道の終わりへと向かい始める。そろそろ旅の終わりも近そうで。曇り空に浮かんだそれらの雑念は、確かにその霧に紛れて 霰 を形成し始める。とうとう慣れた手つきで 霧 に描いた、カメラのシャッターを押す優しい色合いの細いインクの逃さぬうちに、パスタを包むように颯爽と輪郭を描く、本人の描き終えたポップなイラスト。
それを認めるなりすぐさま発表して、他企業の刺客たちから称賛を浴び、息を止める暇なく次の段階へと野原を飛び越えるさまを見るのは僕ではない。背後で黄色い声が遠のいていく。
囚われた白い檻のなかで行われる、無表情な巨人たちのバスケットボール試合の枠内で彼らに怯え、何もできずにただ堪える。大きな破裂音と、暗がりに煩く照らし出される もや に隠れた選手たちの、ボールに夢中で盲目となった日々。手のつけようがないものだからその場でうずくまる。
もうじきこちらへ着岸する船の浮いた底部の下に見えた、刻一刻と狭まる陸との距離にこの日の終わりを思う。「空港まで?」と聞かれようと、この後に向かうのは帰るための岸邊。起床。とても静かに終えた夢だった。
雨の乾かない観光地 ohne Warum| @mir_ewig
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