彼はどうやらここまでのようです
@airclean
第1話
「塵際の桜って美しいと思わない?」
彼女との最後の会話はそんな些細なものだった。
朝起きて朝食を取り仕事に向かう、
何ら変わりない普通の日常だ。
ただ一つその風景に彼女がいないことを覗いて…
「あぁ、町田さん、今日はお早いんですね?」
聞き覚えのある声に耳を傾けると、
少しはにかんだような仕草がみえた。
彼女だ。
「今日は、会社の方に早めに出社しろと言われていてね。このご時世リモートワークが推奨されてきているというのに、
全くうちの会社は堅物だと見受けられる」
僕は自宅のインコに
餌を与えるかのように話した。
「そんな嫌なことばかり考えては
仕事に集中できませんよ?
ほらっ!私とこうして電車のホームで出会え
たじゃないですか!!」
彼女の底抜けの明るさが飛び出す、
彼女はいつもこうなのだ。
これが彼女の良いところでもあるのだが…
「あのだな、君とは終電でいつも一緒なのだから、朝出会うからと言ってそんなに目新しさを感じるようなことはないのだよ」
「まぁまぁ、そんなに怒っていては
釣り糸が切れちゃいますよ?」
彼女は自信満々でさも言ってやったかのような表情を浮かべている
「そんな比喩表現を使うのは君ぐらいだよ、それじゃまた、夜、終電でな」
彼女は一転して悲しそうな表情を浮かべて、
「えぇ、また会えるのでしたら…」
初めて見る表情に僕は驚いたが、また彼女のイタズラ心なのだと納得し、カラッとした返事で改札口を出た
「あぁ、隕石でも落ちない限り君とは会うだろうよ」
駅の入り口に差し掛かったところで後ろから、呼び止める声が聞こえた。妙に聞き馴染みのある声にただ、はぁ、と笑ってしまった。
「あ、町田さん!これ!初詣の時に預かったまま渡しそびれていた、お守りです!!
それと終電、何かお土産期待してますね!甘いものとか…!」
先程の表情とは一変していつもの彼女の図々しさこの上ない顔が見えた。誰かと思えば君か。
「仕方ない、シュークリームかケーキでも買うとするよ、やれやれ君のせいでまた一つ今日の仕事が増えて嫌になったよ」
「では、頼みましたよ〜!!」
安堵に満ちた表情を見せた後、携帯を取り出し彼女はまた元いた方へと帰っていった。
仕事を卒なくこなすのも社会人の義務と言えよう、これも仕事の一つだと割り切り180度方向を変えてまた元の進路へと僕は進路を進めた。
駅を出て、右に曲がると広いメインストリートが見える。
プアードハハのお店でシュークリームを買い、僕は仕事先へと足を進める
「やれやれ、10分遅れか、早めに家を出たつもりだったんだがな」
彼はどうやらここまでのようです @airclean
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