暇つぶしの放課後

空乃ウタ

第1話

 ――ぼーっと窓の外を眺める。グラウンドでは、野球部やサッカー部の生徒達が青春を謳歌せんと美しい汗を流している。


 そんな姿を見ていると、言葉にはしないものの、短い青春を教室で食いつぶしている自分を否定されているような、あたかも我々こそが本物だと主張されているような。そんな卑屈な考えが、じんわりと頭の中で広がっていく。


 決して彼等が間違っていることはない。悪いのは真摯に物事に取り組む人間を、ひねくれた感情で曲解しようとする自分である。


 本音を言えば彼等のように――


「――みたいな事考えてたでしょ。だっさ~」

「勝手に人のモノローグをナレーションしないでくれるかな」


 いつも通りの放課後を邪魔してくるのはクラスメイトの相沢。彼女はバスケ部の練習の最中であるはずなのに、何故か僕の机の上に腰掛けている。


「期待のエースがこんな所で練習をサボってていいのか?」

「あっは~! 期待のエースだなんて!そんな事ないよ~」


 期待のバスケ部エースは、無邪気に笑いながら僕の肩をべしべしと叩く。質問を華麗にスルーしている事は少しも気にしていないようだった。


「桜井ってさ~、いつも放課後教室にいるよね。やることないなら帰れば良いのに」

「暇をつぶしてるんだ。特に意味はないけどな」


 実際、別に家庭環境に事情がある訳でも、家族に不満がある訳でもない。ただ、放課後一人で過ごす時間が何となく好き。それだけの理由である。


「それに、部活動に青春を捧げる君たちを見ながら、スマホゲームに勤しむのも中々悪くない」

「うっわ~……。やっぱり、さっきのモノローグあたってるじゃん……」


 呆れた表情で僕を見ながら、彼女は机から降りる。


「さて、そろそろ行くとしますかね。期待のエースだし。――あっ。今週試合だからね。たまには応援に来てよね。――幼馴染みなんだからさ」


 そう言い残して彼女は教室から出て行った。


 彼女が勝手に考えたモノローグは概ね外れているがあたってない訳ではない。


(たまには応援に行ってやるか……)


 夕日が差し込む教室に爽やかな応援歌が聞こえてくる。


 やっぱりこんな放課後も悪くないと思いながら、スマホのスケジュールに新しい予定を追加した。

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

暇つぶしの放課後 空乃ウタ @0610sora

★で称える

この小説が面白かったら★をつけてください。おすすめレビューも書けます。

カクヨムを、もっと楽しもう

この小説のおすすめレビューを見る

この小説のタグ