第127話 出航!

 国籍というか星籍が変わった一大事。

 それでも今までの生活とあまり変化はない。

 ”地球に戻ってからの”という枕詞はつくが。


「お迎えに参りました」

「はい」


 相変わらず送迎は何人、何台にも囲まれている。


「こちら、移送した物品の目録です」

「確認します」


 一通り目を通したが、概ね間違いない。

 釣り糸の長さから針のサイズまでミリ単位で書かれてもわからん。

 しかも、こんなもん持ってたっけと悩むほど考えた末に思い出すような小物まで出てきたら、概ねと言うしかない。


「到着いたしました」

「今までありがとうございました」

「こちらこそ、良い経験させていただきましたことを感謝いたします」


 ジェントルメーンとはここでお別れだ。

 これからドヴェルへと旅立つ。


 なんてことはない。

 地球とは交流が増えると決まっているし、望めば往来もできる。


「では参りましょう」

「そうだね」


 レイさんの娘さんも使節団の一員としてドヴェルへと向かう。

 そう。

 このための側付きだったということだ。

 今回のねじ込みに口添えはしたけれど、次からはしないぞ。

 隣の女性を見やる。

 ”わかってます” と言わんばかりに意気込む様子がうかがえた。


 広大な土地の中央で別れ、娘さんは地球の船へ、こちらはドヴェルの戦艦へ向かう。


「早く乗って、ハッチ君。私たちは先導だから早めに飛ぶ」

「はい」


 フーギンの掛け声で急ぐと、脇目も振らず目的の部屋へと向かった。

 広々とした操舵室の一席に座ると、オートで安全ベルトが巻き付いてくる。


「各自安全確認!」

「「「「「ヨシッ!」」」」」

「イカリをあげろー!」

「イカリ。収納確認しました!」


 こういう掛け声は童心に帰ってしまうほど心が躍る。


「それでは我らが星へ参ろう。本日もー!」

「「「「「御安全に!」」」」」


 なんか違うんだよなー。


 微震すらなく飛び立つと、一瞬で地球は手のひらサイズにおさまってしまった。

 彼らの船は問題なく飛べただろうかと気になってしまう。

 しかし、オレも他人のことを考えている暇はない。

 ネオ・アースの開拓は仕事として請け負うことになって、これまで以上にハゲむ必要があった。


「シルバーダンデ様! 長距離通信が来ています」

「繋いでください」


 今まで見えていた星々から変わって映し出されたのは『毛玉』だった。


「オイ! ハッチ! 釣竿壊れたにゃ!」


 それだけ言うとプツリと映像も途絶えてしまった。

 引き攣る頬。

 女神様の整った横顔は美しく、それゆえに鼻筋にできるいくつものシワがわかるほど。


「ハッチ。行ってあげなさい」

「はい!」

「わかってますね?」

「……軽いおしおきでしょうか」

「何をおっしゃっているのでしょう。ちょっとばかし遊びが強くなっても問題ないでしょう? 仮想空間ですから」

「は、はい!」


 ドヴェル人になってから、オレの初仕事はケットシーの遊び相手とは……なんとも締まらない。

 だけど、自分らしくもある。

 ”右爪”よ震えて待て。








_____________________________________________________


これにて完結となります。


長期の投稿なしが続き申し訳ありません。

そして、最後まで読んでいただきありがとうございました。

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ネオ・アース・テラフォーミング〜MRMMOで釣り好きドワーフの生産奮闘記〜 コアラ太 @kapusan3

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