キミが一番
ルーカスは猫だけど、ロアにとってはこの世で二匹といない、特別な友だちだ。
ルーカスはとにかく、一番の猫だ。一番大きくて、一番賢くて、一番偉くて、一番強い。一番足が速くて、一番高く飛べて、一番食いしん坊で、一番チーズをもらえる。ロアが持っていないものをすべて、ルーカスは持っていた。
「いいなぁ、ルーカスは。僕もルーカスみたいな一番になりたいな」
けれど、ロアはやせっぽちでおチビさんの、オマケに目も見えないネズミだ。身体が大きくケンカも強いルーカスとはまるで違う。
ルーカスのように大きくなりたくて、たくさんご飯を食べてみた。けど、途中でおなかがいっぱいになってしまう。
高くジャンプをしてみよう。ああ、ダメだ。すぐに地面に足がつく。
なら、一所懸命走ってみよう。いや、やっぱりダメ。あとからやってきたルーカスに、やすやすと追い抜かされちゃった。
他のネズミとケンカしてみる? むりむり。僕のことなんて、あいつらは相手にしてくれないや。
ロアはがっかりしていた。なにをやっても、ロアはルーカスに勝てっこない。ルーカスはなんでも一番なのに、ロアはなんにも持っていない。
落ち込むロアに、ルーカスが声をかけてきた。
「どうした、ロア? 悩んでいるのなら、俺様に話してみろ。なにせ俺たちは、友だちだろう?」
以前ならとっても嬉しかった言葉なのに、今のロアには胸がずきりと痛んだ。
「ああ、そうさ。僕らは友だちだよ。でも、きみはなんでも一番になれるのに、どうして僕はダメダメなんだろう」
「ロアがダメダメだって? そんなこと、誰がいったんだ」
「誰も。でも、みんな思っていることさ。猫のルーカスはなんでもできる。でも、いつも一緒にいるチビネズミは、なぁんにもできない。ネズミのくせに、猫に守ってもらってるだけだ、って」
ルーカスがきょとんとしているのが、ロアにもわかった。
「ロアがなんにもできない? ロアのことを知っているやつが、そんな風に思うわけないだろう」
「でも実際そうじゃないか。僕がこんなだから、ルーカスはいつも僕から目を離せない。でももう嫌なんだ。ルーカスのうしろに隠れて、ぬくぬくと守ってもらうだけなんて。僕は子どもじゃないんだ」
ロアはそういうと、思わずその場を飛び出した。
ロアはネズミの仲間たちが住む家にいた。あまりここは好きではない。生まれた時からずっと、ロアは
仲間たちからは、温かな歓迎はされなかった。
「おい、足手まといが帰ってきたぞ」
「猫の腰巾着だ」
「ここにいたって、なんの役にも立たないくせに」
同じネズミである仲間たちは、そんなふうに
仲間たちはケラケラと笑った。
「どうした? チビの弱虫。悔しかったら、猫を呼んで来いよ」
見下した言葉にも、ロアは必死に耐えた。それでも。
「あの猫も実はたいしたやつじゃないな。だって、唯一の友だちが、こんなヒョロネズミ一匹だっていうんだから」
ルーカスのことまでバカにされ、ロアは
「ルーカスがたいしたやつじゃないだって? おまえらなんか、ルーカスの手にかかれば一発でコロリだ。ルーカスの前に出たら、きっと足がガクガクしちゃって、一歩だって動けやしないぞ。ルーカスのことをバカにするなら、一度でもルーカスに勝ってみろ!」
ネズミたちは、ロアがいい返してくると思っていなかったのか、少し戸惑っているようだった。それでも、その中の一匹が叫んだ。
「そういうおまえは、あの猫に勝ったことがあるのか? チビのノロ助が、生意気なことを。おまえの方こそ、デカい口を叩くなら、あの猫に勝ってみろよ」
ロアは再び言葉につまった。その時だった。
固まっているロアの横を、なにか大きなものが通りすぎたのを感じた。ロアはそこから、覚えのある匂いを
「
ルーカスが低く
「寄ってたかって自分より小さいやつをいじめるとは、力があり余ってる証拠だ......。この俺様が相手になってやろうか」
ネズミたちが震えあがるのが、ロアには肌でわかった。ルーカスがシャーッと激しく息を吐くと、悲鳴をあげ、バタバタと走っていった。
ロアの頭に、なにかがそっと触れてきた。やわらかい肉球は、ルーカスのものだろう。ルーカスはロアをポンポンと撫でて、優しい声でいった。
「おまえが無事でよかった、ロア」
「ルーカス、また僕を助けに来てくれたんだね」
ロアはホッとしたような、情けないような思いでいっぱいだった。子どもじゃないと怒って逃げてきてしまったのに、結局ルーカスに助けられている。
「やっぱり僕は、ルーカスがいないとダメダメなやつなんだ」
「そんなことはないぞ」
ルーカスは誇らしげにいった。
「俺だったら自分のことをあんな風にいわれたら、とっくに相手に飛びかかってる。今ごろ相手も俺も、ボロボロになってただろうさ。でもおまえは、自分のことを悪くいわれても、ケンカしようとはしなかった。それがロアのすごいところだ。ロア、おまえは強い。誰よりも、俺よりも一番強い」
ロアは信じられない思いだった。僕のことを強いだって? あのルーカスが、なんでも一番の猫のルーカスが、自分よりも僕の方が強いって?
「そんなこと、あるわけないよ。だって僕は、チビでとろくて、目も見えなくて……」
「腕っぷしじゃない、心が強いんだ。自分をバカにされてガマンできるやつが、世の中にどれほど少ないことか。おまえが怒ったのは、俺を……友だちを悪くいわれた時だけだ。自分じゃない、ほかのやつを守るために怒ることができる。俺はおまえほど強いやつに、今まで会ったことがない。俺が保証するんだ、間違いない」
自信満々にいいきったルーカスに、ロアは胸がジンとなった。僕はなんて素晴らしい友だちを持ったんだろう。ルーカスは僕を強いと
そこまで考えて、ロアは気づいた。そうか、そうだったんだ。
「僕はきみを一番だと思ってたけど、きみは僕を一番だと思ってる。つまり僕らは、お互いが一番なんだ。僕が気づかなかっただけで、一番大事なものは、すぐそこにあったんだ」
だからね、とロアは続けた。
「これからもずっと、僕と一緒にいてくれよ、ルーカス」
僕はずっと、きみの一番でいたいんだ。
キミは友だち うさぎのしっぽ @sippo-usagino
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